こんにちは。「アークのブログ」編集部の魚住です。元マンガ誌の編集者で、今は小説書きでもあります。2024年春、東京・世田谷区にある「旧尾崎テオドラ邸」に行ってきました。その古い洋館にはギャラリーがあり、マンガ原画展が催されています。喫茶室もあります。訪れる際にはチケット購入(日時指定販売)が必要ですが、この記事を片手にマンガ原画展や写真展にぜひ出かけてみてください。そして、本物の洋館の迫力を体感してほしいと思います。(公開:2024年5月30日/更新:2024年10月1日)
2024年春、グランドオープン!
突然ですが、悔やんでいることがあります。それは、「旧尾崎邸保存プロジェクト」や、そのクラウドファンディングが実施されていることを知らずにいたこと。2020年1月に父が亡くなり、そのままコロナ禍へと突入。伯父・伯母や同い年の友人(古谷三敏先生のチーフアシスタント)の相次ぐ死にも直面し、長らくコロナ鬱でこもっておりました。
完全なるコロナ明けと言える2024年春。鬱々した気分を吹き飛ばすような情報を「やっと」知ったのです。
「2024年3月1日、長い改修工事を経て、ついに旧尾崎テオドラ邸がオープンします」
え?「旧尾崎テオドラ邸」って何?
そこからかよ…って思われる方もいるかもしれませんが、世の中にはまだご存じない方も多いはず。そこで、この記事にて、私のような初心者向け「旧尾崎テオドラ邸」情報をお知らせしようと思います。マンガ原画展への入館方法などのマニュアルとしてお役立てください。
眠りから目覚めた「旧尾崎テオドラ邸」
そもそも「尾崎テオドラ邸」とは、現在の東京・六本木交差点そばの「アマンド」裏にあった洋館です。明治21年(1888年)、男爵である尾崎三良(1842〜1918年)が英国より初めて来日する16歳の娘・テオドラ(1870〜1932年)のために建てたもの。その後、テオドラは「憲政の神様」として知られる尾崎行雄(1858〜1954年/元東京市長※現在の東京都知事)と結婚。テオドラは翻訳家として、日本の昔話を英語で海外に紹介したり、行雄が日米友好のために3000本の桜を米・ワシントンに贈る際にサポートしたり、と活躍しました。
時は流れ、昭和8年(1933年)のこと。万葉集の英訳者として知られる英文学者のO氏(1869〜1945年)がこの洋館を買い取ります。そして解体し、大八車で、当時まだ田園地帯だった世田谷の豪徳寺に移築。そして、O氏の孫世帯が戦後に豪徳寺の洋館を引き継いだのです。この移築のお陰で太平洋戦争時の空襲による焼失を免れたと言っても過言ではありません。
ちょっと簡単ですが、わかりやすくするために年表を作成してみました。この洋館の歴史を振り返るために参考にしてもらえれば嬉しいです。
そして、時代は令和になりました。
この建物に以前から親しんでいたマンガ家の山下和美さんが中心となり「一般社団法人 旧尾崎邸保存プロジェクト」(代表:山下和美・笹生那実)を設立し、両代表のほぼ全財産をつぎ込み、土地家屋を取得。保存するための多大な修繕費用のため、クラウドファンディングの支援やマンガ家さんたちからの融資を受け、この大プロジェクトがスタートしたのです。
これまでの経緯や詳細などは、コミックス『世田谷イチ古い洋館の家主になる』1〜3巻セット(山下和美/集英社)をぜひご覧ください。ハラハラしますが、グッときます!
そして、ギャラリーや喫茶室などを備えた「旧尾崎テオドラ邸」としてついにグランドオープン。今後は日本のマンガ文化の発信拠点となります。ワクワクしますね♪
「旧尾崎テオドラ邸」案内
①まずは、「旧尾崎テオドラ邸」の公式サイトを見てみましょう。
公式サイト→ https://ozakitheodora.com/
②ギャラリーにて開催中または開催予定の展覧会を確認。
「ギャラリー」→ https://ozakitheodora.com/gallery/
③来館前に「チケット購⼊ページ」を確認しましょう。
「チケット購入」→https://ozakitheodora.com/ticket/
★事前チケット販売(チケットぴあにて日時指定販売)
●ギャラリー入場料:1,000円(税込)
ギャラリー入場とショップの利用可能チケット
●喫茶室 席予約付き ギャラリー入場券:1,000円(税込)
ギャラリー入場・ショップ利用・喫茶室の席(90分)予約が含まれたチケット(ギャラリー観覧時間は営業時間内無制限)
●アフタヌーンティー付き ギャラリー入場券:5,950円(税込)
ギャラリー入場・ショップ利用・アフタヌーンティー(90分)の予約が含まれたチケット(ギャラリー観覧時間は営業時間内無制限)
★当日販売チケット(定員枚数終了でなければ、館内ショップにて販売)
●当日ギャラリー入場券:1,500円(税込)/ 1枚
※ギャラリー入場とショップの利用可能チケット。喫茶室は利用不可です。
※すべて未就学児無料
※チケットの購入はキャッシュレス決済のみ対応。現金のお支払いはできません。
「え?私、クレジットカード持ってない!」という方、交通系ICカードやQRコード決済も使えます。何が使えるか、まずは確認してください。
「ご利用可能な決済方法」→ https://ozakitheodora.com/ticket/
④指定した日時に「旧尾崎テオドラ邸」に訪れたら、玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替え、廊下や階段はそっと静かに歩きましょう。ギャラリーは2階にあります。
この日は「松苗あけみ展 ~spring has come~」が開催中でした(現在は終了しています)。松苗先生の展覧会は、前期・中期・後期と1週間ごとに分かれていて、その期によって違う作品が展示されていたもよう。私が取材した日の展示は2023年に開催された「松苗あけみ原画展」(吉祥寺リベストギャラリー創)ともまた別の作品が展示されていました。展覧会の展示作品入替についてもX(旧Twitter)公式アカウントでお知らせしてくれるので要チェックです。今後も様々な展覧会が予定されていますのでお知らせをお見逃しなく。
⑤1階に喫茶室があります。尾崎テオドラが生きた時代の英国の食文化に着想したオリジナルのお菓子や英国紅茶を中心としたこだわりのメニューを厳選しています。この機会にアフタヌーンティーでお茶会はいかがですか(要予約)。
アフタヌーンティーのケーキスタンドは、主に3段で構成されています。正式には上段はデザート、中段は温料理などスコーン、下段はサンドイッチ。紅茶とともに、これが本格的なアフタヌーンティーです。下の写真は、この日のアフタヌーンティーのセット。上段は「旧尾崎テオドラ邸オリジナル ヴィクトリアケーキ」「グラスデザート」「フルーツ」、中段は「スコーン」、下段は「サンドイッチ三種盛り合わせ」です。憧れのケーキスタンドっ!(嬉)
⑥1階にショップがあり、展覧会での関連グッズやテオドラ邸オリジナルグッズ、展覧会やテオドラ邸に関係された方の既刊・新刊など豊富に取り揃えられています。こちらも現金不可ですので、先述の「ご利用可能な決済方法」をご覧ください。
▲画像は左右にスライドできます
⑦トイレは1階と2階にあります。御手洗いの調度品までとっても素敵です(写真は1階の御手洗い)。
⑧「旧尾崎テオドラ邸」には、撮影スペースやパーティースペースなどのレンタルスペース(有料)もあります。
「レンタルスペース」→ https://ozakitheodora.com/rental/
■展示のお知らせ
▲▲▲サイン会やトークイベントについてはX(旧Twitter)をチェックしてください
▲画像は左右にスライドできます
「或る夜、エドガーが迎えに来そうな窓」
取材にうかがった日は、休館日の木曜日ということもあって100年超の古い棚の修繕中。それでも取材に入らせてもらっただけで感激でした。旧尾崎邸保存プロジェクトの共同代表である笹生那実先生にも挨拶できました。それもこれも連絡にご協力くださった阿部ゆたか先生やきたがわ翔先生のお陰です。取材当日は人気マンガ「ドラゴン桜」の三田紀房先生がいらっしゃったのに瞬間的に人見知りが発動してしまい、挨拶ができませんでした。次の機会にはぜひ!
そして、この日はマンガ家の木村晃子先生と高木裕里先生にもご同行いただいて、マンガ家の視点から洋館「旧尾崎テオドラ邸」を味わってもらいました。
さすが、高木裕里先生! マンガ家さんは写真の撮り方、構図も上手です。X(旧Twitter)にアップされていたのを許可もらったので転載しています。
「今日は、お友だち(お嬢様)の家に招かれた気分です。まるで英国が舞台のマンガに登場する洋館ですね。ごてごてと飾りたててなくて、シンプルなのでとても品があります。装飾が多すぎだとちょっと下品に見えてしまうこともあるので。全体的に縁や溝が多い造りになっていて、背景として描く時、アシスタント泣かせだなと思ってしまいました(笑)。そして、この窓の造り…エドガーが迎えに来てくれそうな窓なんです(笑)」(木村晃子先生)
萩尾望都先生の「ポーの一族」まで連想するほどの昔懐かしい洋館。お二人とも終始小声ながらもキャッキャしてて女子高生のようでした。そして、憧れのアフタヌーンティー。他のメニューも楽しみたいので何度でも訪れようと思います。
さてさて、ちょっと私事ながらこの洋館と関係するおもしろいことがあったので最後に記しておこうと思います。それは、この取材から1週間後のことです。
私はもう10年以上、鍼治療(電気鍼はもう20年以上)を受けており、行きつけの治療院(東京・江戸川区)があります。その治療院は、鍼灸院にありがちな東洋医学の怖そうな人体模型などはなく、シンプルで落ち着いた雰囲気。静かなギャラリーもあり、品の良い絵画が展示してあるのです。室長は腕が良くて明るい英子先生です。治療院代表のM子先生にはほとんどお目にかかる機会はありません。普段は治療をしてくれている英子先生を訪ねています。
1ヵ月ほど引きずった腰痛を抱えて、久しぶりに訪れた治療院。鍼治療が進むなか、いつものように英子先生と雑談をしていました。
魚住「実は先週、取材に行ってきたんですよ。豪徳寺にオープンしたばかりの……」
英子先生「あら!偶然、つい先日、うちのM子先生から豪徳寺に行ってきたお話を聞いたばかりなんですよ」
魚住「豪徳寺と言えば招き猫!猫ちゃんお好きそうですもんね」
英子先生「猫も好きだけど今回は違うんですよ。M子先生のひいおじいちゃんが住んでいたお家がきれいになって、そこにギャラリーとか喫茶室ができたらしいんですよ」
魚住「ん?あれ?先生!それって…私ら、同じ場所のこと言ってませんか?」
英子先生「古い洋館で…M子先生のひいおじいちゃんが昔、麻布から大八車で運んで…」
二人「「それって、旧尾崎テオドラ邸ーーっ?」」
すごい偶然です。二人で鳥肌立ちました。「世間は狭い」と言いますが、なんか嬉しくなる偶然です。実はちょっと前に治療を受けようと電話をしたら、いっぱいで予約できませんでした。もし、その時に予約がとれて治療できていたら、お互いこの話はしていませんでした。
後日、英子先生がM子先生に詳しく聞いてくれました(取材は苦手ということで一応、お名前も伏せておきます)。
テオドラ邸を丁寧に解体し、大八車で麻布から豪徳寺に移築した英文学者O氏は、M子先生の母方のひいおじいちゃんであること。ひいおじいちゃんはとってもおもしろい人物だったこと。
旧尾崎テオドラ邸には先日、M子先生も親戚さんたちと行ってきて、すごく懐かしかったとのこと。なぜなら、M子先生も子どもの頃、親戚さんたちとともにテオドラ邸で過ごしたことがあるからなのです。
そして、取り壊されそうになっていた想い出いっぱいのテオドラ邸を買い取ってくれて、きれいに保存・運営してくれて、親戚一同とっても感謝しているとのこと。
O氏が移築したことから東京大空襲で焼けなかったテオドラ邸。
行きつけの治療院の代表先生がO氏のひ孫さん。
おまけに、いつも治療をしてくれている英子先生は、たまたま尾崎テオドラ英子(フルネーム)と同じ名前。
とてもご縁を感じた出来事でした。
最後に、マンガ家の木村晃子先生の言葉を置いておきます。
「凝った造りの洋館は他にも山ほどあると思います。でも、旧尾崎テオドラ邸ほど、シンプルなのに存在感・重厚感があり、こんなにも惹きつけられる建物はなかなかないのではないでしょうか」
今回は取材させていただき、本当にありがとうございました。また、うかがいます。
■旧尾崎テオドラ邸(ギャラリー・ショップ・喫茶室)
営業時間:10:00〜18:00
休館日:木曜日(その他 展示入替休館あり)
[事前販売チケット(チケットぴあにて販売)]
事前チケット販売はオンライン(チケットぴあ)にて日時指定の販売をしています。
購入後は時間変更・キャンセルはできません。お間違えのないようご購入ください。
★チケットの購入はコチラ→ https://ozakitheodora.com/ticket/
公式サイト X(旧Twitter) Instagram Facebook
住所:東京都世田谷区豪徳寺2-30−16
アクセス:小田急小田原線 豪徳寺駅から徒歩約9分、東急世田谷線 宮の坂駅から徒歩約6分 ※駐車場はありませんので、公共交通機関をご利用ください。
●撮影= 清水亮一(アーク・コミュニケーションズ)
●文・iPhone撮影・編集・WordPress= 魚住陽向(編集者、小説家)
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