マンガ家・きたがわ翔先生と訪ねる大泉学園の聖地「BARレモン・ハート」

こんにちは。「アークのブログ」編集部の魚住です。今回、お酒関連の書籍制作に強いアークが紹介するのは東京・大泉学園にある「BARレモン・ハート」です。「マンガとかドラマで聞いたことがあるタイトル…」と思ったかたは鋭い! この、お酒とマンガの聖地を「マンガに詳しすぎるマンガ家」のきたがわ翔先生とともに訪ねました。この機会にぜひ、お酒とマンガという文化を楽しみましょう。(公開:2023年2月17日)

きたがわ翔(きたがわ・しょう)
マンガ家。1967年、静岡県生まれ。1981年、少女誌「別冊マーガレット」(集英社)に投稿した『番長くんはごきげんななめ』で13歳の時にデビュー。86年から「週刊ヤングジャンプ」(集英社)をはじめ、講談社、角川書店などあらゆるジャンルのマンガ誌へ活動の場を広げる。『19<NINETEEN>』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』(※ここまで集英社)『刑事が一匹』(講談社)『デス・スウィーパー』(角川書店)など代表作多数。また、『プロが語る胸アツ「神」漫画1970-2020』(集英社インターナショナル新書)やYouTube「山田玲司のヤングサンデー」内の『【漫画家による極限の漫画分析】れいとしょう』でもマンガの歴史や分析を分かりやすく解説。YouTube内で「れいとしょう」と検索してください。
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古谷三敏先生のマンガ「BARレモン・ハート」

こんにちは。マンガ家のきたがわ翔です。「マンガに詳しいマンガ家」として様々なジャンルのマンガに関してお話しさせていただく機会があり、YouTube『山田玲司のヤングサンデー「れいとしょう」』では、ありがたいことにマンガ解説がご好評いただいてます。

今回は、以前から来たかった「BARレモン・ハート」にご縁があってうかがうことになりました。そもそも、マンガ『BARレモン・ハート』をご存知ないという若い世代の皆さんに少し説明させていただきます。

マンガ『BARレモン・ハート』はマンガ家・古谷三敏(ふるや・みつとし)先生の代表作です。「別冊漫画アクション」(双葉社)にて1985年に連載がスタート。一話完結で「お酒に関するうんちくマンガ」として大勢のファンに愛されました。累計発行部数は900万部以上。コミックスは全37巻(2022年12月現在)全472話。※古谷三敏先生プロフィール

『BARレモン・ハート 37巻』
双葉社
(アクションコミックス)2022年12月27日発売
古谷三敏 著/未完成だった原稿2話分をアシスタントの大野氏・人見氏による作画・仕上げで完全再現、描き下ろしとして収録。付録:これまでの全エピソード登場のお酒索引

マンガ「BARレモン・ハート」STORY:東京都内某所にあるバー「レモン・ハート」には世界中のお酒が揃っています。そして、お酒の知識が豊富なマスターが様々なお客さんを毎晩やさしく迎えてくれます。常連客として、その素性が全て謎に包まれた男「メガネさん」と、お酒が弱いけどお酒が好きなフリーライターの「松っちゃん」もいます。数々の出会いや人間模様とそれに関係した様々な酒の紹介によって人々の心を解きほぐすハートウォーミングな物語です。



マンガで紹介される酒はウイスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒、ワイン、ビール、シャンパン、日本酒などの醸造酒、リキュールなどの混成酒やカクテルなど。マンガを読んでいるうちに酒のうんちくが身につきます。参考:ウィキペディア「BARレモン・ハート」

残念ながら、古谷三敏先生は2021年12月8日に逝去されました(享年85)。2022年12月に発売された第37巻は最終巻とはせず、コミックを「本店」になぞらえ、「本店は『いったん閉店』」と表現されています。皆さんぜひ、ご一読を!

ドラマ「BARレモン・ハート」公式サイト(BSフジ)
「BARレモン・ハート」は実写ドラマとしても楽しむことができます。マスター役は中村梅雀さん。歌舞伎ファンだけでなく、2時間サスペンスドラマ好きも惚れ込むハマリ役。メガネさん役は川原和久さん。ドラマ「相棒」伊丹刑事ファンもドラマ「BARレモン・ハート」を観てくれているそうです。松ちゃん役は松尾諭さん。「拾われた男」や「シン・ゴジラ」での水ドン名台詞「まずは君が落ち着け」で注目の俳優さん。毎回のゲストも豪華俳優陣が出演していて、見逃せません。
過去作(バックナンバー)はAmazonプライムU-NEXTでの配信でも観ることができます。
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店主・古谷陸さんは元ゴールデンボンバー所属

今もみんなに愛されるマンガ「BARレモン・ハート」ですが、リアルな世界にも存在します。東京・大泉学園にある「BARレモン・ハート」。現在は、古谷三敏先生のお孫さんである古谷陸(ふるや・りく)さんが店主であり、バーテンダーを務めていらっしゃいます。

■リアルなBAR「レモン・ハート」オープン!
——このバーを開かれたのは故・古谷三敏先生。気づいた時にはすでに大泉学園にあったように記憶しています。昔からのマンガファンの間では有名でした。
「オープンしたのは1987年頃ですかね。実は記録が残ってないんですよ。確か、コミックスの3巻目が出たぐらいでしょうか。最初は大泉学園の、今とは違う場所に開店して、それから移転したんです。ココは2店舗目なんですよ」(古谷陸さん)

■バーテンダーを受け継ぐ家系?
——古谷陸さんは故・古谷三敏先生、つまりおじいさまのことを「うちの先生」と呼んでいらっしゃいます。なんか、可愛くていいですねぇ。
「うちの先生に、BARレモン・ハートをなぜ開いたか、聞くと『当時、ウイスキーなどを自宅で集めていてたくさんあったのと、お客さんに出して楽しんでいただくお店があってもいいのではないかと思って』とのこと。オープンしたお店の初代バーテンダーは僕の母親がつとめていました」(古谷陸さん)

© 古谷三敏・ファミリー企画/双葉社

「母と僕のバーテンダーの師匠が同じ方なので、僕から見たら母はバーテンダーの姉弟子にあたるんですよ(笑)。僕は1990年生まれなんですが、母は、僕を身籠もったタイミングで引退して、別のバーテンダーさんにお店を引き継いだんです」(古谷陸さん)

■陸さんのプロフィールが興味深い!
——そんな陸さんの前歴を聞いた時はビックリでしたよ。「元ゴールデンボンバー」だったとは!
「ゴールデンボンバーのメンバー「鶏和酢里紅(とりあえず・りく)」兼スタッフやっていました。高校2年生の頃に初めてゴールデンボンバーのライブを観て、衝撃を受けたんですよ。当時、メンバー募集をしていたので、メールで思いの丈を綴り、入らせていただきました。エンタメ&エアーバンドですごく楽しかったです。専門学校卒業するまでの約3年間、活動に携わらせていただきました。「女々しくて」が大ヒットする少し前ぐらいにバンドも卒業して。ボーカルの鬼龍院翔さんとは昨年も一緒にアイルランドへ旅行したり、今も仲良くさせていただいてます」(古谷陸さん)

▲陸さんは、ゴールデンボンバー3年ぶりのアルバム『COMPACT DISC』(2023年2月8日発売)の特典DVDに参加されているそうです。すごい!

——専門学校はバーテンダーの学校かと思いきや、調理学校だったそうです。やはりお店を継ぐ気持ちがその頃からあったんですかね。
「お店を継ぐかどうかは別にして、飲食関係の仕事をしたいと思ってました。特にバーテンダーになりたかった。でも、調理師の資格を取るために調理学校に行ったんです。バーテンダーとしては新宿に師匠がいて、10代の頃からその方の所に入らせてもらって基本的なカクテルのメイキング技術を学びました」(古谷陸さん)

——現在は「BARレモン・ハートの店主であり、バーテンダー」ですが、それまで外の世界で修業する意味でも数々の飲食店で働いた経験が活きてるように感じますね。
「そうですね。それまでは母から引き継いだバーテンダーさんが何人かいらっしゃいました。ココに戻ってきたのは2014年末。お店を引き継いだのが2015年4月です」(古谷陸さん)

■「本店はコミックス内に。このお店は支店です」
——マンガの中で、「BARレモン・ハートには世界中のお酒が揃っていて、ないものはない」設定ですよね(笑)。
「はい、マンガの中では(笑)。よくお客様には『本店はコミックスの中にあります。このお店は支店です』とお伝えしています」(古谷陸さん)

——素敵なキャッチフレーズです(笑)。では、この支店にはどのぐらいのお酒があるんでしょう。
「現時点(2023年1月)で、このお店には約600種類のお酒があります。すべてオススメなのですが、ワインと日本酒だけは置いていません。バーとしては封を開けたら劣化しやすいお酒の取り扱いはやめています。ご了承ください」(古谷陸さん)

「BARレモン・ハート」にはオンラインショップもあり、オススメのお酒やオリジナルボトルが購入できます。一度のぞいてみてください。
また、オリジナルのお酒の監修やオンラインショップでの販売も請け負っています。2023年3月に先行予約開始される「小林さんちのメイドラゴン ワールドブレンド」(発送は7月予定)はオリジナルウイスキー企画。双葉社のニュースリリースをご覧ください。


「オリジナルのウイスキーを造ってみたい」「クラフトビールを造りたい」など、興味のある方は一度相談してみては? お酒の監修だけでなく、オリジナルラベルデザインの相談にも乗ってもらえます。まずは公式サイトから問い合わせしてみてください。

マンガ家・きたがわ翔先生も酔いしれる?!

陸さんに「お客さんに『おまかせで』と注文されたらどんなお酒を出しますか?」と訪ねたらこんな答えが返ってきました。
「決まり切ったものを出すより、その人とお話させていただいてからつくります。お酒や味覚の好み、好き嫌いなど、その人のパーソナルな部分を聞かせてもらってからお酒を選びます」(古谷陸さん)

なるほど。そんなワケで、「BARレモン・ハート」のマスターに、きたがわ翔のイメージでカクテルをつくっていただきました。レシピは「サクラのリキュール2種、紅茶、フランボワーズ、シロップ」。スッキリと甘く飲みやすくて、お酒を飲み慣れていない女性にもオススメの味です。

私は13歳の時に少女マンガを描いてデビューしていて、昔の少女マンガオタクでもあります。だからマスターは昔の少女マンガのイメージでつくってくれたのです。というわけでこのカクテルに名前を付けました。陸奥A子先生オマージュですね(笑)。

▲カクテル「たそがれ時に見つけたの」(命名:きたがわ翔)

実は、古谷三敏先生もデビュー当時は少女マンガを描いていらっしゃいました。あの当時、少年誌は人気マンガ家で席がいっぱいだったようで、なかなか描く場がありません。だから、ちばてつや先生も赤塚不二夫先生も大御所マンガ家の皆さんは少女マンガを描いていた時期があります。その当時の古谷三敏先生のペンネームは「ふるや・ムツ子」でした。とても貴重な作品です。

『湖の少女』
(兎月書房/1962年5月)
『みどりの楽園』
(兎月書房/1962年6月)
『チューリップ天使』
(兎月書房/1962年8月)

© 古谷三敏・ファミリー企画

大泉学園駅の近くにこんな隠れ家的なバーが、それも大先輩がつくられたお店があるなんて驚きます。そして、とても素敵ですし、興味深いですよね。

そもそも大泉学園はマンガやアニメの聖地です。現在も関連のプロダクションが多いですよね。以前から気にはなっていましたが今回来ることができて良かったです。

近年、若い世代のお酒離れを感じます。お酒は嗜好品であり、ストーリー性の高い文化です。マンガ「BARレモン・ハート」を読んで、歴史など知識・うんちくを探っても興味深い。また、お酒の造り手たちにもドラマがあります。出逢いもあります。オタク心をくすぐるアイテムでもあります。体質的に飲酒ができない人は別にしても、若い人たちにはお酒にもっと興味を持ってほしいと思います。正しく楽しめば、お酒というカルチャーは人生に彩りを与えてくれると私は信じています。

さて、「アークのブログ」編集部の「ボクっ娘の成れの果て」魚住です。マンガ家のきたがわ翔先生とは、仲良しのマンガ家・木村晃子の原画展でお目にかかりました。もちろん大人気マンガ家さんであることも存じ上げていましたが、こんなにもお話が上手な方とは知らなかったので驚きでした。それに加えて、昭和40年代からのマンガにも詳しく、その分析力は研究者並みです。

基本的にマンガ家は人前が苦手な人が多いのですが、きたがわ翔先生は圧倒的にプレゼンがうまい。YouTubeを観ていても解説・説明が非常に分かりやすいのです。「人前で上手に話せるマンガ家」は希有な存在です。そこで今回、案内役をお願いしたのですが、取材現場を見事に明るくしてくれました。さすが、繊細かつ大らかなヒットメーカー! あと、瞳が超キレイ。きたがわ翔先生、ありがとうございました。

今回の取材を企画したところ、快く受けてくださった「BARレモン・ハート」の店主・古谷陸さん。大変感謝しております。ありがとうございました。皆さんもぜひ一度、大人の隠れ家的な「BARレモン・ハート」へ行ってみてください。人類創世記からの文化である「酒」を気軽に楽しむことができますよ。

■BARレモン・ハート
営業時間:18:00〜24:00
定休日:日曜日(不定休)
※イベントや撮影などによりお休みの場合がございます。店舗までご確認ください。

公式サイト・オンラインストアhttps://barlemonhart.com/

住所:東京都練馬区東大泉4-2-15 原田屋ビルB1F
TEL:03-3867-1682
アクセス:西武池袋線大泉学園駅より徒歩約3分

●撮影= 清水亮一(アーク・コミュニケーションズ
●文・編集・WordPress=魚住陽向編集者、小説家

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