ライフスタイルアートブランド「N/OH(ノウ)はなぜ日本酒をつくったのか?

アーク写真室のカメラマン・清水亮一です。アーク内外の写真撮影や時々、動画制作、そして写真講座(講師)をしています。2020年にアークのブログで紹介した酒販店「桑原商店」で、未だに忘れられない、とても不思議な味の日本酒に出会いました。それが【活性生酒 -能-】です。なぜ、器や花器などを扱うブランドが日本酒をつくったのか。今回は【活性生酒 -能-】を企画・販売しているライフスタイルアートブランド「N/OH(ノウ)」を訪ねました。(取材:2020年11月25日/公開:2021年1月27日/更新:2022年1月16日)

ライフスタイルアートブランド「N/OH」とは?

N/OHは、2019年3月6日にスタートした器や花器、オブジェなどのオートクチュール、プレタポルテを制作・販売しているライフスタイルアートブランドです。
作品をアートプロダクト(アートとプロダクトの間のものを示す造語)と定義し、人と人、人ともの、空間を繋ぐものづくりを大切にしている。クリエイティブディレクターの増元直人さん、彫刻家・アートディレクターの宮脇志穂さん、カメラマン・デザイナーのマーティンさんの3人を中心に運営。

▲左からマーティンさん、増元直人さん、宮脇志穂さん

応えることで、

世界とつながる。

 

N/OH(ノウ)とは、「能」「応」

相互作用であり、情報伝達であり、意思疎通を意味しています。

それらのもつ意味を感じながら、お客様、作り手をはじめとするものごとや人と「反応」し、我々が「能/できること」で世界と繋がりたい。

そんな思いを込めて N/OH は発信します。

 

(Webサイト「N/OH」より)

なぜ、日本酒をつくろうと考えたのか

N/OHの増元さんと宮脇さんに、「活性生酒 -能-」をつくることになったいきさつを伺いました。

—早速ですが、そもそも日本酒をつくろうとしたのはどうしてですか?

増元:N/OHでつくるかどうかは別として元々、お酒をつくりたいと思っていたんです。個人的にお酒がとっても好きというのもあるけど、お年賀やお歳暮といった人に贈り物をする時に、こだわりがあるものを贈りたいと意識が働くじゃないですか。そこでお酒をつくりたいなと思って。ただ、あくまでも僕たちはN/OHというブランドがあって、守っていきたいブランドイメージや方向性がある。その中で、ある種の表現ツールとしての日本酒をつくれないかと考えていたんです。ただ、急にお酒を売るとなると酒屋さんになってしまうので。少しずつ構想をあたためていたんです。

—2年ほど前に日本酒づくりのきっかけがあったとか?

増元:ちょうど2年くらい前にある酒屋のご主人と出会い、いろいろなお酒の話を聞かせてもらった。それを通じて、僕にも日本酒をつくれるかもしれないと思い、まずお酒を販売する免許を取りに行ったんです。N/OHには器があって、器には入れるものが必要になる。そして、その延長線上にお酒があったらと思うと、ストーリーが浮かぶんですよね。日本酒と一緒に僕たちの器を施主さんに渡すことができるし、そこでまた会話が生まれて、まさにインタラクティブな感じだなって。

—日本酒をつくることが目的ではなく、人と人とのコミュニケーションを大事にしているんですね。

増元:そうかもしれません。器とお酒って相性ぴったりじゃないですか。まさに「茶の湯」が社交場や文化の発展の場になったように、お酒や器をきっかけに植物を愛でたり、会話や意識が広がっていくと思うんです。それから創業当時から作品展開の強化を考えていて、ギャラリーでのオープニングパーティーでそこのアーティストがつくったお酒があったら、なんか無敵な感じ(笑)。オープニングパーティーに矛盾がないというか。なんかストンと落ちたんです、僕の中で。

▲増元さん曰く「現代の茶の湯は居酒屋だと思った」

—宮脇さんはどうでしたか。「日本酒つくろうよ」ってなって。

宮脇:食を通して人とつながる良さはずっとNEOSHIHO(N/OH以前の宮脇さんの個人ブランド)の時から実感していて、さらに自分のつくった器を使ってもらえるのはすごく嬉しいです。とはいえ、器作りから飛躍して日本酒をつくるという流れは、突拍子もなくて、最初はマジかと思いました(笑)。でもうちの親も日本酒好きだし、農家だったこともあり、お願いしたらお米を譲ってくれるかなと思って。結果的には、親も大喜びでしたね。器もそうですが、日本酒は唯一無二ですよね。ある意味作品に近いんです。

—唯一無二というのは、よくわかります。なるほど。お米は岐阜県内のご実家のものなんですね。

お米の収穫の様子

—愛媛の蔵元と一緒にやろうと思ったのはどうしてですか?

増元:【活性生酒 -能-】には表記していませんが、手仕込みなんです。それに蔵元さん自身で菌を採取するんです。このお酒で使っている菌も、岐阜稲葉山(現:金華山)の神社の土から酵母を取り出し、その中からお酒に合うものを選び、試行錯誤して平成16年にできたと聞きました。そういうこだわりとかものづくりに対する姿勢とか、非常に僕らに近いと感じたし、僕らが目指す姿と思ったんです。

▲【活性生酒 -能-】

—【活性生酒 -能-】のWebサイトをみると、お米も菌も岐阜県内のものを使っているとある。これは「N/OHが岐阜にあるから地元のものを使ったのかな」という印象でした。でも、地元だからではなく、蔵元さんの考え方が皆さんに合っていることが大前提だったわけですね。

増元:一番はそこです。別にお酒だったら何でもいいとかじゃなくて、お酒のことをずっと考えていたタイミングで誰からか愛媛の蔵元さんとのご縁をいただいて。酒屋の主人もそうですよね。

宮脇:岐阜だからというよりも、私たちが出会った人たちを大切にしているという感じですね。

—味はかなりの辛口ですよね。でも辛みの奥には甘みや旨みがあって、香りがどんどん変化していく感覚が、スパイスが混ざったような印象で、驚いたのを覚えています。初めて飲んだ時、どう表現したらいいのかわからず、「スパイシー」としか言葉にできませんでした(笑)。お酒づくりを蔵元にお願いするにあたって、味のリクエストなどもされたのですか。

宮脇:もちろん、「うちのお米でつくってくれますか」ってお願いはしました。ただ味の注文はしてないです。日本酒のプロジェクトとしては、味を求めたわけではないから。そりゃあ、おいしいに越したことはないんですけど。あとは味の注文はできないといいますか(笑)。

増元:確かに味の注文はしてないね。信頼しているから。志穂さん家の田んぼでとれた食米で、精米歩合90%。酒米は使ってない。その時点で味がどうとかわからない。けど、「自分たちが信頼しているんだから、なんかいいでしょ」って。

—味のオーダーをしていないといいうのはびっくりです! もちろん、難しいのはわかるんですけど。

宮脇:味の注文はできないというと誤解を生むかもしれませんが、なんて言ったらいいのかな。あるものでいいというか、あるものが一番幸せと思うんです。3人で蔵元を訪ねた時に道の駅でお野菜買ってご飯をつくったんですけど。この時のご飯はもう二度とできないじゃないですか。なんだってそうだと思うんです。みんな日頃の食べるものって、いつも同じ味が出て当たり前とか、同じ味を求めがちになると思うんです。そういうことじゃない喜びで「おいしい」じゃんって思うというのに近い。この日本酒プロジェクトは。
だから、プロに任せた方がいいかなって。

▲「美味しいは美しい味だからね。美しいって曖昧。だけど何か通っているモノがある。そういうところが美術と繋がると思うんです」と宮脇さんは語る

—自分たちの変化も含めて、プロジェクト自体を楽しむことに重きを置いているんですね。

宮脇:そうですね。そっちの方が楽しみですね。

▲【純米大吟醸 小仕込み -能-】と【N/OHカップ酒 –USUZUMI-】

—最後に日本酒プロジェクトとN/OHの今後の展開は?

増元:日本酒はいま3つのラインアップを用意しています。まず、フラッグシップの濁り酒【活性生酒 -能-】、贈物として【純米大吟醸 小仕込み -能-】、そして【N/OHカップ酒 –USUZUMI-】です。僕は自社内松竹梅って勝手に呼んでいます(笑)。今はこの3種類でプロジェクトを継続していく考えです。くれぐれも酒屋ではないから僕たちは。そこはブランドとしてぶれないように考えていきたいなと思っています。N/OHとしてブランドの展開強化は常に考えていますが、日本以外に台湾、韓国、香港に正規販売店(2020年11月時点)があって、2020年12月に世界同時に新作発表と販売をする予定です。個人的に東洋的なものって素敵だとも思うし、ちゃんとアジアを知りたいし、この目で見てみたいという気持ちもあります。お酒や器を通じて人やモノを繋げる感覚と同じように、N/OHは作品を通じてアジアを繋げるようなことができればと考えています。

—アジアを繋げるというのは面白そうですね。それにまたあの日本酒に会えると思うと、日本酒プロジェクトが継続するのは嬉しいです。楽しみが尽きませんね。本日はありがとうございました。

▲N/OHの新作【応 –OU-】2020年12月25日にアジア同時発売され即完売した。今後も継続的に販売される。

取材を終えて

今回は日本酒の話を聞きにいったのですが、記事にできないほど、たくさんお話いただきました。居心地がよくて随分長居してしまいました(笑)。

「N/OHは楽しいから一緒にいるし、家族のような関係だよね」というマーティンさんの言葉の通り、日本酒のプロジェクトに限らず、ヒトにモノにコトに「真剣に楽しむ」を実践している方々なんだとお話を聞いて、感じました。

「器や日本酒はヒトとヒトをつなぐもの」と考えるのは、ヒトに対する興味が尽きず、とてもヒトが好きなんだと思いました。酒屋のご主人や蔵元さんとの出会いもその気持ちがあるからこそなんだと。

日本酒の味については、飲んでいただくのが一番かと。機会があれば、特別な日に特別な日本酒を大切な方と是非とも飲んでいただきたい。今後の活動がとても楽しみなブランドでした。N/OHの皆さん、本当にありがとうございました。

N/OH(ノウ)

URL: https://www.n-oh.com/

 

※作品、また販売については、Webサイト「N/OH」からお問い合わせください

●インタビュー・文・撮影= 清水亮一(アーク・コミュニケーションズ
●写真提供・協力= N/OH(ノウ)
●編集・WordPress= 魚住陽向(編集者、ライター、小説家