作家・藤井青銅✖️ひとり出版社✖️独立系書店で起こる新しい出版化学反応!

こんにちは!「自称・藤井青銅の妹分」魚住陽向(編集者/小説家)です。2021年7月30日、東京・浅草近く、田原町にある独立系書店にて、小さなイベントが開催されました。放送作家であり、小説家でもあり、他にもいろんな顔を持つ藤井青銅さんの出版記念トークイベントです。そして、この小説本『一千一ギガ物語』を編集し、世に送り出したのがひとり出版社。さてさて、どんな出版化学反応を起こしたのやら。ちょっとのぞいていってください。(公開:2021年8月10日/更新:2022年11月26日)

『一千一ギガ物語』猿江商會)刊行記念トークイベント 放送作家・藤井青銅が「ひとり出版社から本を出してみた」
日時:2021年7月30日(金) 18:30開場/19時開演
会場:Readin’ Writin’ BOOK STORE(東京都台東区寿2-4-7)
URL:http://readinwritin.net/

おもしろいこと思いついたら藤井青銅に報告だ!

藤井青銅さんの小説本『一千一ギガ物語』は、2021年6月25日に猿江商會より刊行されました。その出版を記念してのトークイベント…えっ? 説明が足りないって? はい。それではまず、登場人物のお三方から紹介してまいりましょう! ご存じの方も改めてよく読んでいただけると幸いです。

藤井 青銅(ふじい・せいどう)

「オードリーのオールナイトニッポン」(ニッポン放送)を生きる糧にしている「リトルトゥース」たちに尊敬される大御所放送作家にして、ラジオ界のレジェンド。すべては1979年(昭和54年)、23歳の時に第1回「星新一ショートショート・コンテスト」に入賞したことから始まる。その後、小説家以外にも放送作家脚本家作詞家として活動。ライトノベルの源流といわれる徳間書店アニメージュ文庫にて『死人にシナチク』シリーズなどの小説を執筆。歴史本やエッセイ本など数多くの書籍を出版。最近では『「日本の伝統」の正体』(柏書房)が大ヒット!また、千本ノックのようにラジオドラマを執筆。数々のラジオ番組の構成。

伊集院光のラジオ番組にて「架空のアイドル・芳賀ゆい」プロジェクトメンバーの一人として仕掛けを考えたり、日曜の夜・資生堂一社提供のトーク番組で古舘伊知郎司会の「オシャレ30・30(サーティサーティ)」(日本テレビ)の構成をしたり、腹話術師・いっこく堂のプロデュースしたりと、メディアでの活動は多岐に渡る。最近ではライフワークとして、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供している。2022年夏放映の木ドラ24『お耳に合いましたら。』(テレビ東京系)にご本人役で出演。何故か「築地銀だこ」の制服姿を披露。

藤井青銅公式サイトhttp://www.asahi-net.or.jp/~MV5S-FJI/
Twitterhttps://twitter.com/saysaydodo
notehttps://note.com/saydo/

古川 聡彦(ふるかわ・あきひこ)

猿江商會 代表。大学卒業後、光文社に入社し、約8年間つとめる。2005年12月、大修館書店に入社。大修館書店在籍時に藤井青銅と出会い、『オードリーのオールナイトニッポン 一年史』制作に携わる。大修館書店を退社後、2015年1月ひとり出版社である猿江商會を設立。経緯は下記URLから藤井青銅さんの[note]にてご覧ください。
「一人出版社探訪記(1)」https://note.com/saydo/n/nee0eff7fa630
「一人出版社探訪記(2)」https://note.com/saydo/n/n19787e399a0a

猿江商會公式サイトhttp://saruebooks.com/
Twitter→ https://twitter.com/saruesyokai
Facebookhttps://www.facebook.com/saruesyokai

落合 博(おちあい・ひろし)

Readin’ Writin’ BOOK STORE 店主。大学卒業後、読売新聞大阪本社に入社。約7年間、運動部にて記者をした後、出版社でトライアスロン雑誌の編集者に。1990年、毎日新聞に中途入社。運動部のデスクや編集委員、運動部長を経験し、退職前は東京本社で論説委員に。2017年、毎日新聞を退職。58歳で独立系書店「リーディンライティン ブックストア」を開業。2021年9月、光文社より『新聞記者、本屋になる』が刊行。
インタビューhttps://book.asahi.com/jinbun/article/13756707

Readin’ Writin’ BOOK STORE公式サイトhttp://readinwritin.net/
Twitterhttps://twitter.com/ochimira

本来、プロフィールは略歴というぐらいだから短めに、そして端っこに掲載されるものである。それをいきなりドーンと並べちゃうのには意味がある。
斜陽産業と言われることも少なくない「出版」業界において、この人たちは新たな展開を生んでいくキーパーソンだからだ。ご本人たちは自分の好きなことをしているだけだし、あまり自覚がない。「天下取る!」と意気込むほど若くも元気も金もない(それは私もそう)。

いくつになっても、そんなにお金はなくても、みんな「おもしろいこと」を思いついたらやってみたいのである。そして、それは「一人のおもしろいこと」から「みんなのおもしろいこと」に変わって、どんどん広がっていく。

「出版」というカタチの新たな化学反応が起こっていると思うのである、少しだけ。
そんな化学反応の第一段階は「おもしろいことを思いついたら藤井青銅に報告だ!」。そして「藤井青銅を巻き込みたい!」なのである。

おもしろいことはおもしろい人を呼ぶ!

今回、このお三方が催したトークイベントは本当に小さいものです。集客が望めないのはコロナ禍なので仕方がありません。今回はオンライン配信も行われていたので(会場参加・オンライン配信ともに参加費1,000円)観られた人はとても貴重な話を聞けたと思います。

お話は藤井青銅さんと古川さん。お二人の出会いから藤井青銅さんの新刊小説本『一千一ギガ物語』を刊行するまでの経緯。このタイトルをつけたのは古川さんだそう。さかのぼって、ひとり出版社「猿江商會」を立ち上げるまでの話。ひとり出版社とはどういうものなのか。

個人的に強く興味を引かれたのは流通代行をしてくれるトランスビューの存在だ。書店での流通には取次会社との契約やISBNコードの取得などが必要で、様々な流通手続きに費用が発生する。決済や金融面も個人で行うと面倒なことが多い。こういった部分が以前はハードルが高かった。古川さんがひとり出版社を立ち上げるに当たって、トランスビューという取引代行してくれる会社(出版社でもある)が「パートナーになる出版社を探している」という話を聞いたことが大きかった。

「一人で出版社を立ち上げるのなら今かもしれない」

今や、猿江商會を含む約35社がトランスビューのシステムに参加している。日販やトーハンといった大手取次を使わず、書店と直接取引をする出版社。トランスビューは、これらの出版社と共同で出版案内を書店に送ったり、流通の代行を行う。書店から注文を受けてから出荷する「注文出荷制」だ。

大手取次だと「パターン配本」が主流で、書店は自分の裁量で「どの本を何部仕入れる」などの自由選択な仕入れはできない。「お任せ」など便利な面もあるだろうが、書店側が返本するにも費用がかかってしまう面もある。

魚住は2011年から3年ほど、書店員をやってみたことがある。バイトでも何でも「本のそばにいたかった」からだ。それから、本の流通の裏側を見たかった。そして、絶望したのである(笑)。しかし今、話を聞けば聞くほど少しだけ希望の光があるではないか! おもしろいぞ。

それから藤井青銅さんの経歴やお仕事の話。1978年、たまたま買った公募雑誌「月刊チャンス」創刊号で見かけた第1回「星新一ショートショート・コンテスト」の募集。その雑誌を買ったのは後にも先にもそれ一度きりなので誰かが呼んだのかもしれません。

このコンテスト受賞者への副賞『星新一と一緒に行くカイロ~パリ~ウィーン~ロンドン11日間の旅』という超豪華ツアーもこの一度きりらしいですし、不思議な縁を引き込む藤井青銅さん。その旅行中に直接いただいた星新一先生のコートの話。今でも大切に持っているそう。星新一先生に学んだこと。物語を書く上で大事にしていること。詳細は、星新一先生の次女・星マリナさん(ライター、翻訳家)が運営している「星新一公式サイト」「寄せ書き」として寄稿しています。

小説家としての話。徳間書店アニメージュ文庫『死人にシナチク』シリーズはまあまあヒットした。小説家としては食えないからテレビ番組やラジオ番組の構成作家の仕事が増える。ラジオプロデューサー・ドン上野氏との出会い。ラジオドラマ「夜のドラマハウス」。テレビ番組「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」内での人気キャラクターが歌う「マモー・ミモー 野望のテーマ 〜情熱の嵐〜」の作詞。プレステのヒットゲーム「とんでもクライシス」を作った話。

作詞した曲などがヒットしても印税契約は結んでおらず、そんなに儲かっていないが、それよりも今まで自分を引き上げてくれた人物との出会いは大きいという。星新一やドン上野、いろんな出版社の担当編集者、ラジオ局の関係者……当時のリスナーは30代、40代になり、「藤井青銅とおもしろいことがしてみたい!」と考え、実現できるようになってきた。今はインターネットも、SNSもある。昔と違って、「憧れ」はグッと近くなった。

そんな数々の出会いの中の一人が猿江商會の古川さんだった。今回、二人はどういう小説を創ろうか打ち合わせしていく。その段階がとても楽しそうだ。古川さんが打ち合わせの最初の頃に話したという「打ち合わせに行く段階で、ほぼ腹は決めている」「普通は『持ち帰って、上と検討します』と言うと思うんですが、ひとり出版社なので、持ち帰る『上』がいないんです」(笑)という言葉に納得! だからこそ、曖昧に逃げられないし、決断も一人でしなければならない厳しさもあるのです。当たり前に思えるかもしれませんが、大きくなりすぎて身動きが鈍くなっている出版業界を見ていると、とても身軽で新鮮な言葉でした。

一人で楽しむメディアの未来

この小説本『一千一ギガ物語』の発売を控え、著者・藤井青銅氏と版元である猿江商會・古川氏はSNSを使って、毎日のように告知をしていました。それに呼応するように、Readin’ Writin’ BOOK STORE・落合氏がSNSを通じて「うちでトークイベントやってみませんか」と連絡したのが、このトークイベントのきっかけ。

この3人の動きによって、出版の新しいカタチの可能性を感じています。集客は難しいし、メガヒットなんてしないかもしれません。「ビジネス」や「社会貢献」でもありません。でも、親が楽しそうに仕事をしていると、それを見ていた子どもたちもやってみたくなるように、若い世代が「おもしろいこと」を「それぞれのつながり」で創り上げていく。それが徐々に拡散されていく。

本やマンガ、ラジオは一人で楽しむメディアだと思います。以前、笑福亭鶴光師匠に取材した時に聞いたエピソード。営業でお祭りに行った時、屋台の強面のお兄さんがすごい勢いでずんずん近寄ってくる。鶴光師匠が「殴られる!」と思った瞬間に「つっ、鶴光さんのオールナイトニッポンはオレの青春でしたっ!!」と深々と頭を下げられた。そう、中高生の頃に一人で楽しんだものは一生の宝物なのです。

リトルトゥース」たちは、どんなおもしろいものを創って発信していくのか、今から楽しみなのです。そして、藤井青銅さんや我々の世代はこれからどうおもしろがって創作・制作ができるか……そんなことを考えながら、イベント会場であるReadin’ Writin’ BOOK STOREを出たら、世の中は世紀の祭典「東京オリンピック2020」を絶賛開催中でした (笑)。

▲「過疎化する村にただ一人移住してきた若者に喜び沸き立つ集会所のおじさんたち」左端に座っているのはリアルなイベントに足を運んでくれた唯一のリトルトゥース。千葉県習志野市の大学生(18歳)

新型コロナ感染予防対策のため、トークイベントはマスクを着用して行っています。入場の際には手指の消毒もお願いしています。

一千一ギガ物語
藤井青銅〔著〕
ある夜、オンライン学習システムから配信されてきた一篇の「ショートショート」。意味深な寓話から、奇妙奇天烈なとんち話、息もつかせぬドタバタコメディまで。一晩に一話ずつ配信されてくる物語を読み進めていったひとりの少女は、次第に物語の世界に引き込まれ、ついには驚きの結末に…。現実と虚構が錯綜する摩訶不思議な28篇の小さな物語を、第一回星新一ショートショートコンテスト入賞者の著者が軽やかに描き出した「令和のアラビアンナイト」。
価格:1,650円(税込)
Amazonhttps://amzn.to/3fxshLN
猿江商會
公式サイト→http://saruebooks.com/
Twitter→ https://twitter.com/saruesyokai
Facebook→ https://www.facebook.com/saruesyokai

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