青森県の名所や名物を青森弁のラップで歌うPR動画が話題になっています。こういった自治体PR動画やCM、町おこしのイベントでラップ企画がある場合、作詞や指導・監修などで声がかかるのがラッパーのマチーデフさん。ラッパーとしての活動だけでなく専門学校でラップの講師もつとめています。ラッパーとしての活動の話はもちろん、「企画書作り」や「お金の流れを知ろう」などの、ビジネスマンにも発見のあるお話が聞けました。(公開:2017年3月8日/更新:2022年3月29日)
マチーデフ(MACHEE DEF)プロフィール
生まれも育ちも東京都渋谷区。以前はピン芸人(太田プロ)として活動。1997年にラップを始め、オトノ葉Entertainmentのラッパーとして数多くの作品をリリース。2014年発売のソロアルバム『メガネデビュー。』はiTunesヒップホップアルバムチャート1位を獲得。2017年2月10日、渋谷区フォルムネックレス付きCDRシングル(4曲収録)をリリース。また、地方自治体PR動画、CM、テレビ番組、映画のラップ指導・監修だけでなく、専門学校のラップ講師として幅広く活動中。●ラップ指導や歌唱のお仕事の一例:『トヨタ自動車CM「のび太とスネ夫のラップバトル篇」』『クラウド会計ソフト「freee(フリー)」完全オンラインで確定申告を楽しくわかりやすく学べる参加型コンテンツ「確定申告モンスター」のプロモーション動画・確定申告モンスターのうた「めんどくさくて、ごめんなさい。」』『京都アニメーション制作のTVアニメ「小林さんちのメイドラゴンS」PV第1弾』のラップ監修、ラップ指導など。
マチーデフ公式サイト:https://www.macheedef.com
Facebookページ「マチーデフ」/Twitter
※マチーデフさんのお知らせはマチーデフさんのFacebookやTwitterをご覧ください。
ラップ+「自治体PR」は意外と!?相性がいい!
数年前から全国の自治体がPR動画にかなり力を注いでいます。観光名所をバックに住民たちが名物片手にヒット曲に合わせて踊ったり、映画のようにストーリーや映像にこったりと、アイデアをひねり出して作っているのがとても好感が持てます。その中でもひときわ目立っているのが青森県の名所や名物を方言ラップで歌うPR動画。タレントでもない主婦や漁師、県知事までラップできるなんて「スゴイ!」と思った方も多いはず。
ラップ企画に欠かせないのがラップの指導や監修をするプロのラッパー・マチーデフさん。どうもラッパーというと強面でワルっぽいというイメージがあったんですが(失礼)、物腰柔らかで真面目なマチーデフさんからは攻撃性というものは微塵も感じられず、まずはホッとしました。そこで日頃なかなか知ることのないラッパーと自治体PR動画の関わりを根掘り葉掘り聞いてみました。
——ここ数年の各自治体PR動画は「ダンス」が主流でしたが、その中でラップの需要が徐々に高まってきているのはどうしてですか?
マチーデフ イメージのギャップがウケているんだと思います。ラップは行政という堅いイメージとは真逆にある音楽。自治体の「イメージチェンジ」をしたいというニーズに、ラップがハマっているのかと思います。それに、ラップは譜割りが細かいので、普通の歌に比べると情報量をたくさん入れられるんです。その町の良い所を短い時間で列挙してアピールしたい時にラップは効果的。青森県のPR動画では8小節の中にご当地グルメが6品も出てきます(笑)。それはCMでラップする際にも言えるかもしれないです。情報を30秒、15秒で伝えたいという場合にラップで伝える。それでいて映像でもいろいろ遊べる部分もあるんですよ。
マチーデフ CMの場合、その仕事に関わるのはクライアント、代理店、制作会社がいて、僕です。その中で僕に声をかけてくれるのはそれぞれ案件によって変わります。香川県PR動画の場合は知人の監督さんに直接オファーをもらいました。あれもミュージカルっていう時点でもう面白いんですが、そこにラップが入ると印象が強くなると監督さんが意図してくれたのだと思います。
マチーデフ 青森県のPR動画の場合、すでに歌詞は決まっていました。青森は距離があったので、青森での撮影本番当日しか直接指導ができなかった(←!!)。出演してもらう地元の方々にも青森県知事にも撮影当日に初めて会うわけです。今まで指導してきた経験上、すぐにラップができるわけがないのは分かっていたのでめちゃくちゃ不安でした。事前に歌詞は完成していたので、僕が仮で録音した仮歌を向こうに送って、「とにかく聴いてひたすら練習しておいてください」と伝えたんです。そのプレッシャーは結構かけましたけど(笑)。それでも不安でしたね。
マチーデフ 僕も歌詞監修に加わってますが、青森弁(津軽弁・南部弁)ネイティブではないので青森から上京したラッパーの友達に声をかけて協力してもらい、ネイティブの青森弁でちゃんと仮歌を歌ったんですよ。人のつながりをフルに活かして個人的に協力してもらって、まるで青森弁ラップチーム(笑)。それで、仮歌を録って送ったんです。
マチーデフ めちゃくちゃ嬉しかったのは、出演してくれたホタテ漁師の人。当日まで直接指導はできないけど、途中経過報告のやりとりはしてました。「今、これぐらいラップできてます」という報告動画がメールで送られてきて、その動画を再生したら画面の片隅に映っていたのが、どうもカセットテープのケース。「この人、もしかしてカセットテープで練習してるのか!?」(笑)でも、僕からはMP3で送っているんです。つまりMP3で送ったものを青森の代理店の人がCDに焼いて、さらにそこからカセットテープにおとして、そのテープをラジカセでひたすら聴いて練習してくれてたんですよ。それを見て感動しましたね。しかもちゃんと歌えるようになって当日もすごく上手だった。涙ぐましい努力が本当に嬉しかったですね。
マチーデフ ラップがすぐにできるかどうかは年齢的な問題もあるんじゃないですかね。その点、女子高生は最初から心配していなかったです。全然イケてましたから。年配の男性はラップにのれないのが「味」になるのでそれを最大限に活かす感じで指導します。基本的には僕がガイドを録って事前に送っておく。でも本番当日に、ガイドとちょっと違う感じに歌ったりするんです。それは多分その人のクセ。でも、ラップって正解がない音楽なんです。音が外れることがあってもいいというより「音が外れる」という概念がない。どちらかというと「リズムが外れる」みたいなことなんですが、リズムってそう滅多なことでは外れない。その人のクセで出た「味」はなるべく優先するように指導はします。「あ、そっちの方が歌いやすいんですね。じゃあ、そっちにしましょう」みたいな感じで僕が合わせていくんです。
——青森県知事は自然な裏打ちになってましたね(笑)。すごく可愛いです。
マチーデフ そうそう(笑)。でも、あれが「味」になってたし、オチの台詞が活きる。独創的で、持ち味みたいな部分ではすさまじく持ってる方だと思います。そこを活かす方向で指導する。当日も「イントネーションが出やすい歌い廻しで歌ってください」とお願いしていたんで。なるべく自然な青森弁が出るように心掛けました。
マチーデフ 出演者の皆さんにも「楽しかった」と言ってもらえました。それに「すごい話題になってます。ありがとうございました」って連絡がありました。本当にありがたいです。あの動画、全国的にも話題になってますが、青森県内のスーパーマーケット内でも流れているみたいです。地元の方が喜んでくれるのが一番嬉しいし、やってよかったなって思いますね。
企画から作って実現!「立石フェスタ」の「ラップのど自慢」
——東京の下町、立石の商店街イベント企画も楽しそうでしたね。
マチーデフ 「立石フェスタ」というお祭りの企画で「ラップのど自慢」をやらせてもらいました。きっかけは「マチーデフ&サイボーグかおりのラップ百人組手」というインターネット番組で立石の細谷さんという靴屋さんと知り合ったんです。細谷さんは「立石フェスタ」に関わっていて「なんか面白いことできないか?」って結構ざっくりした話が来たんですね(笑)。僕も細谷さんのことが好きだし、立石の町自体もまったく縁がないわけではなかった。実は母の実家が立石。おばあちゃんの家があるんです。そういうつながりもあるんで「絶対にやりたいな」「僕ができることはラップしかない」というわけで「ラップのど自慢」の企画を提案しました。
マチーデフ よく地域のお祭りにはカラオケ大会があるけど、それのラップバージョン。カラオケと違うのはオリジナルのラップを歌ってもらうということだったんです。それぞれの言葉でラップにして歌ってもらいたい。ラップを作ることや教えることに関して僕は自信があるし、何でも協力できるからやらせてくれと、企画書を作りました。
——企画書!? ラッパーは企画書も作るんですか?
マチーデフ 何においても企画書は必要かなと思いまして。最近は自分から企画書作るようにしています。ペラ1みたいな感じの簡単な企画書ですけどね(笑)。細谷さんにその企画書を投げて、「立石ラップのど自慢」ができることになったんです。10組ぐらい出場したかな。出場したのは立石の飲み屋のママさん、葛飾区議会議員2人、カレー屋を2店舗営んでる立石が好きなネパール人、小学生の兄弟とか…バラエティーに富んだメンバーですね(笑)。
マチーデフ 僕はラップを教えること、一緒にその人達の言葉を拾ってラップを作ることはできても、その人達を集めるチカラは僕にはない。そこはもう地元の人のチカラを借りるしかなかった。細谷さんや地元のコーディネーターのような人達がいたから実現できたんです。地元の方々のチカラありきなんですよね。それに、集まった人たちも実はラップに興味があって集まった人達ではないんです。人を集めることってとても大変で、僕もチラシを配ったり草の根活動的なこともしたんですけど、現実はそんなに甘くない。実は地元で顔が広い方々が直接「出てよ!」って頼んでくれたから来てくれたんです。
▲立石ラップのど自慢に向けてのワークショップ(写真は左右にスライドできます)
——普通に考えて、ラップでステージに上がろうっていうのはわりとハードルが高い(笑)ですよね。
マチーデフ そうなんです。だから、本番に向けてのワークショップを1カ月間かけて4回やったんですよ。もちろん、僕が教えます。それも立石の神社の社務所を借りて(笑)。そこへ参加者に集まってもらってラップを教えたんですが、最初は「知り合いに頼まれたから来ました」的なテンションだった。まぁまぁ、それは僕も分かってたんで(笑)。でも、そこからは僕の仕事。ラップの楽しさを伝え、ラップを教えて、最終的にはその人たちもやる気を出して。本番当日は本当に良いイベントになったという実感がありましたね。人さえ集めてくれれば、僕は何とかできるという自信はあった。でも、そこが一番ネックだったんですけど。本当に地元の方々の協力が得られたのが嬉しかったですね。
▲神社の社務所でYO!YO!YO!(写真は左右にスライドできます)
マチーデフ 地元コーディネーターの方もなるべくノリの良い出場者を選んでくれたと思うんです。だからというわけじゃないですが楽しいイベントになりました。小学生の兄弟が「ポケモンGO」のラップを披露して優勝しました。もう1組の昆虫好きな小学生の兄弟は優勝は逃して残念でした。弟の方が歌詞を忘れちゃって…。でも、そこで超良かったのはお兄ちゃんの方が歌詞を忘れた弟の肩を組んで「がんばれ〜」って応援して、お客さんも「がんばれがんばれ」って応援の大声援。だから、ラップの上手さじゃないんですよね。ラップという初めての、慣れないモノに挑戦している姿を町のみんなに披露する・共有するということが町を活性化させると思うんです。こういうイベントはそれが目的ですかね。
▶ 次ページ:「名刺交換に企画書作成!社会性のあるラッパー」