モスクワの若者に日本のマンガを教える!? マンガ家・高木裕里先生に聞くロシア文化事情

一番人気は『NARUTO』…ロシアのマンガ・文化事情

高木裕里先生にロシア(モスクワ)の文化事情、マンガ事情についても教えてもらいました。

●日本のマンガ人気No.1は?

私の周りでは『NARUTO』が一番人気ですね。それから『銀魂』。忍者、和服、刀など日本の文化が入っているマンガの方が支持が厚いかな。『進撃の巨人』も好きな子が多いですよ。『ONE PIECE』はみんな読んでるけど、マニアックにハマっていくのはやっぱり『NARUTO』や『銀魂』。日本から「少年ジャンプ」持っていって、ポンと渡すとわぁーっと群がってきます。すさまじいほどです(笑)。正規のライセンス契約した日本のマンガはロシアにはないようで、例えば「少年ジャンプ」はアメリカのライセンス会社を経由してロシアに入って来ています。
マンガ雑誌がほとんどないので、一番パッと観やすいのがアニメですね。日本ではアニメのベースがマンガだっていう認識だけど、ロシアでの認識はその逆。ロシアではアニメを観てからマンガに入る人が多い。先にできて配信されるのがアニメで、その後からマンガができるものだと思っていますね。

moscow_01▲生徒たちが、とあるマンガで日本の「コタツとみかん」の存在を知ったそうなんです。「コタツはホントにすごくいいものだよ」「ロシアにあったら、みんなコタツから出られなくなるから(笑)」って教えておきました。日本の文化や生活をマンガで知ることができる。文化が違うということはおもしろいです。

●ロシアに「少女マンガ」は存在しない?

ロシアには「少年もの」「少女もの」というジャンル分けが存在しません。だから、女の子も「少年マンガ」を読んでますし、描きたいのも『NARUTO』のような「少年マンガ」です。性別や年齢層を考えながらマンガを描くというより「自分の描きたいマンガを描く」。もちろん、ファンタジーとかSFのようなジャンルはあります。でも、日本のマンガのように細かくカテゴライズされておらず、「少女マンガ」というジャンルはないので、ピンとこないかもしれないですね。

●子ども達の娯楽は「ドストエフスキー」? 「マンガは芸術ですか?」

2年ほど前までは「マンガは芸術ですか?」という質問を本当によくされました。私は「芸術ではないよ。娯楽だよ」「飾っておくものではないから」って答えてました。そもそもロシアにはマンガという文化自体がない。だから昔の日本みたいに「マンガって何?」っていう人が多くて、子どもが「習いたい」って言うと親御さんが心配してついてくることもあったんです。「アニメは娯楽だけど、マンガは芸術なのか?」「マンガは芸術作品で、美術館に飾ってあるのか?」ってしつこく聞かれました。だから「マンガは飾っておくものじゃなくて、生きてるものだから芸術じゃないよ」って説明してました。最近はその質問は出なくなりましたね。

ロシアで日本のアニメが観られるようになる以前は子ども達の娯楽ってやっぱり文学だったんだと思いますよ。10代から普通にドストエフスキー読んでたり、文学作品を読んでますね。出版社も多いし、本屋さんもたくさんあるんですよ。そして、すごく素敵な図書館が多くて、人で溢れてます。子ども図書館というのもあるんですが、子ども向けの書籍が充実してました。絵本ではなくて、児童文学作品が揃ってる。ロシア語さえ読めればとても良い環境だと思いますね。

●ロシアのネット事情

vk

デジタル環境が発達しているロシア。Wi-Fiは公共施設はもちろんのこと街中どこでも驚くほどつながりやすいですね。モスクワ以外の地方でもインターネット環境はしっかりしてる。少しでも日本に興味持ってるモスクワの子たちは全員「LINE」を使ってますね。東京にいる時にモスクワの教え子からLINEで連絡あると不思議な感じがしますよ(笑)。それからロシア版FacebookっていわれてるSNS「VK」(VKontakte/フコンタクチェ =「連絡中」という意味) はほとんどの子が登録してます。

●「日本でマンガ家デビューしたい!」って?
ロシアの生徒たちはみんな「日本でデビューしたい」と言ってますが、ロシア人がロシア人のための娯楽を作る方がいいと思うんです。日本人に向けてマンガを描くのではなく、ロシアの文化、恋愛観、結婚観などをロシア人の感性でロシア人の読者に向けて描いてほしい。日本のとはまた違う興味深いマンガが絶対出てくると思う。日本から来たマンガ文化を楽しむのはアリですが、今後はロシアのマンガ界を創りあげてほしいと考えています。

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▲教えていて楽しかったことですか? 全部楽しいんだけど!!(笑)

今回、マンガ家の友人から紹介され、高木裕里先生にお目にかかりましたが、美人のうえにサバサバしてカッコいい女性なのですよ。そして、インタビューの最後に高木裕里先生が語ってくれたお言葉にぐっと来ました。
「マンガは完成度の高い娯楽。そして、総合芸術でもある。日本では50年以上かけて、数々のマンガ家の先生たちが創りあげてきてくれた世界なんですよね。そこに少しでも引っかかっていられるので私はとても幸運だなと思っています」(高木先生)
高木裕里先生! 興味深くて楽しいお話をありがとうございました。

また、取材にご協力いただいたイ・エヌ・インターナショナルの高木創史さんは「和太鼓パフォーマンス”暁天”」のメンバーで文化交流イベント「HINODE」にも出演。普段から和太鼓という日本の伝統文化を国内外に広めているお一人です。今回はご協力いただき、本当にありがとうございました。

◆Japan House(ЯПОНСКИЙ ДОМ)
1994年にできた日本資本のオフィスビル。ビジネスセンターとしてテナントに向け、安心で快適な環境を提供し、日本の様々な文化やアクティビティーを、ロシアに広める展開をしている。
住所:15, Savvinskaya nab., Moscow, 119435, Russia
TEL:+7 495 258 4300
email:info@saison-group.ru
URL:https://www.japanhouse.ru/jp/
アクセス:モスクワ地下鉄5号線(環状線)キエフスカヤ駅より徒歩約10分

◆(有)イ・エヌ・インターナショナル
カルチャーにおいては文化・イベント事業を、ビジネスでは研修事業など、日本とロシアにおける文化交流とビジネスチャンスを創出し、実現化。ジャパンハウスにおける日本の窓口的な役割を担っている。
住所:東京都新宿区若葉1-6 エンゼルボックス102
TEL:03-5919-2653
email:eni@e-n-inter.jp
URL:https://www.e-n-inter.jp

●文= 魚住陽向(フリー編集者、ライター、小説家)
●撮影・編集=大山勇一