今、日本酒業界は非常に熱い!全国の酒蔵が数えきれないほど様々な美酒を醸しており、日本国内はもちろん、海外でも日本酒ファンが日に日に増えています。日本酒専門店や日本酒イベントも常に盛り上がっていて、まさにブームと言っても過言ではありません。
日本酒は色んな銘柄、色んな飲み方があるというのは大きな魅力。その反面、「何から飲めばいいのか分からない!」という敷居の高さを感じる人もいるでしょう。でもご安心ください! そんなあなたには「飲み歩キスト」である町田慈音さんがとっておきの場所を紹介します。ということで、今回は東京・浜松町にある「名酒センター」を取材してきました。(公開:2017年7月27日/更新:2022年3月20日)
町田慈音(まちだ・じょん)
翻訳家/文筆家/飲み歩キスト
日本の文学とサブカルとお酒(とりわけ日本酒)をこよなく愛する飲兵衛さん。遠慮も謙遜もでき、誰からも愛される外国人。敬語が使えるほど日本語が超堪能…日本文化にも精通しすぎで、「生まれてくる国を間違えたね」と言われること多数のようです。町田さん曰く、「今日もきっと、美味しい日本酒を求めてどこかの素敵な酒場に出没しているはず。出会ったら日本酒で乾杯しましょう!」とのこと。
「名酒センター」はこんな素敵なお店!
「名酒センター」はJR浜松町駅から徒歩で約5分、大通りから一本入った、閑静な裏道にあります(橙色の看板が目印!)。店内に入ると、まず目に飛んでくるのは、壁一面の冷蔵庫にずらーっと並ぶ色とりどりのお酒たち。まるで日本酒の博物館のようです! ただ、もちろんここは何も眺めるだけの場所ではなく、全部有料試飲できます。まさに自分好みの日本酒に出会える、お酒好きにとっての天国です。
「名酒センター」は、全国40以上の酒蔵の協同アンテナショップで、常時120種類以上のお酒が店内に揃っています。いわゆる大手ではなく、中小規模の家族経営の蔵がほとんどで、東京のお店でなかなか巡り合えない銘柄や限定品も多く、ますますワクワクします!
「名酒センター」の利用(試飲)システムは、極めてシンプルかつ良心的で、初めてのお客さんには店員さんが丁寧に説明してくれます。冷蔵庫から自分の飲みたいお酒を探し、カウンターに持っていくと店員さんが注いでくれます。お酒の単価によって1杯の値段が決まっており(1杯200~300円のお酒が中心で、さらに高価なものもあります)、飲み比べ用に3種を同時に頼むと100円引きになります。ワンコイン(500円〜)から3種の美酒の飲み比べができるとはなんといってもお得! さっそく選んで、飲んでみましょう。
ただ、魅力的なお酒が120種類も並んでいると、何から飲めばいいか悩む人が多いでしょう。それでは初心者でも失敗しない、お酒の選び方を紹介したいと思います。
日本酒の選び方①:お店の方に聞く
「名酒センター」の店員さんは日本酒の知識も豊富で、「日本酒の美味しさを伝えたい!」という情熱もグッと伝わります。日本酒の様々なタイプ(吟醸酒、大吟醸酒、本醸造など)やスペック(精米歩合、日本酒度、酸度)などについて、分かりやすく説明してくれます。もっと気軽に楽しみたい方は「軽めな感じで」、「甘味のあるお酒」、「しっかりしたもの」とか、ざっくりとしたイメージを伝えるだけで自分に合ったお酒をセレクトしてくれるでしょう。一杯試飲したあとで感想を伝えると、また別のお酒を選んでもらう。こうしてさらにさらに自分好みに日本酒に辿り着くという「旅」が名酒センターの醍醐味の一つではないでしょうか。
日本酒の選び方②:自分で選ぶ(文系編)
お店の方に相談するのは間違いないのですが、たまに冒険して自分で選んでみるのも楽しい。日本酒初心者で「色んな専門用語が分からない!」という方もご心配なく。フィーリングで選んで何も問題ありません!ラベルがかっこいいからとか、名前が面白いからとか、作っている場所に行ったことがあるとか、そういう理由で選んだお酒はもしかして自分の運命のお酒かもしれない。冷蔵庫に並んでいる日本酒は、北から南、東から西という順番に整列されているため、全国を旅する感覚で、それぞれの都道府県のお酒の特徴を楽しむこともできます。
日本酒の選び方③:自分で選ぶ(理系編)
一方、特に理系の方は、各酒瓶に丁寧に書かれているスペックを見て選ぶ楽しみ方もおすすめします。例えば、精米歩合は「お米をどこまで磨いたか」を表している数値ですが、40%~50%台と半分ぐらい磨いている大吟醸や吟醸クラスのお酒は綺麗で澄み渡った味のものが多いのに対して、60%~70%台(比較磨いていない、つまり玄米に近い状態)のお酒はお米のしっかりした旨みを楽しめるでしょう。
日本酒度(同じ量の水と比較した場合、日本酒の比重)という数値も表記されており、一般的には日本酒度が高い=辛口/日本酒度が低い(マイナス)=甘口というイメージが強い。実際のところ、米や酵母の種類や造りの違いもあるのでなかなか一概には言えませんが、日本酒度や酸度といった数値も一つの目安にするという手もありますね。
日本酒を味わう
お酒を選んでカウンターに持っていくと、店員さんがそのお酒の背景(作り手の話、造りや原材料、味や香りの特徴の話)を丁寧に話しながら注いてくれます。それで目の前に登場した日本酒はどう飲めばよいのか? ショット感覚で「一気飲み」するのはもちろんNG。日本酒は「酔うため」のお酒ではなく、「味わうため」のお酒。まず香りを嗅ぎ、どんな味がするのだろうと想像しながら一口飲み、飲み込んだ後もその余韻を楽しめるといいでしょう。その後はお好きなつまみ(このあと、おすすめメニューを紹介します!)を合わせて、お酒と料理のマリアージュを堪能するのも粋。
もう一つ忘れてはいけないのは「和らぎ水」の存在。日本酒はビールやワインより度数が高めで、また焼酎とは違って薄めて飲むのは基本しないので「和らぎ水」(いわゆる「チェイサー」用のお水を日本酒好きはこう呼んでいる)を飲むことがおすすめです。体質は人それぞれですが、目安として少なくとも日本酒と同じ量か、お酒が弱い方はその倍飲めばまず悪酔いはしないと言われます。
では、日本酒で乾杯!
さて、「名酒センター」で実際、どんな素敵な日本酒に出会ったのでしょうか? 試飲した中から特に印象的な3種類をピックアップしてご紹介したいと思います!
●森民酒造本家(宮城県仙台市)「小粋なすずめ」純米酒
こちらのお酒は、「名酒センター」スタッフの本田さんセレクト。最近はあまり自己主張しない、ゆるゆると飲んでいつまでも飽きないお酒が好み、と語る本田哲士さん。自分もそういうタイプの酒が好きなので期待が高まる。呑んでみるとまさに「ザ・食中酒」という感じで、すっきりとした飲み口で、おつまみに優しく寄り添ってくる。確かにいつまでも飽きずに飲み続けられそう。
●中谷酒造株式会社(奈良県大和郡山市)「三日踊」特別純米
「名酒センター」の主宰者が蔵とコラボしてプロデュースしたお酒ということで選んでいただきました。日本酒独特の製法「三段仕込み」の1段目と2段目の間を「踊り」といいますが、通常1日の「踊り」を、3日間掛けることでより強い発酵を目指しているというのはこのお酒の特徴です。しっかりとした香りとお米の味わいがまさに口の中で「踊っている」ような感覚で、美味しく頂きました。
●石井酒造(埼玉県幸手市)「健誠 酒酒酒」
おしゃれで印象的なラベルを理由に選んでみたこのお酒は、本田さんの話によると、全国で稀に見る、蔵元も杜氏も20代で、若い作り手さんが生み出した名酒です。「貴醸酒」という、一部水の代わりに日本酒で仕込んだ日本酒がありますが、このお酒はなんとその「貴醸酒」で、さらに日本酒を仕込んだという「再貴醸酒」。色も味わいも日本酒とは思えず、とろ~りとした上品な甘みで、絶品の「デザート日本酒」です。若い作り手がこれからどんな美酒を世の中に送り出すのか非常に楽しみですね。
日本酒が進む「名酒センター」の絶品おつまみ
ここで、名酒センターの絶品をつまみもぜひ紹介したいと思います。日本酒は(単体で楽しむのももちろん悪くないですが)「食中酒」としてより本来の力を発揮します。おつまみ用冷蔵庫に入っているのは、見ているだけで日本酒が飲みたくなるようなアテばかり。
この日は、特にお酒が進みそうなイカの塩辛(300円)と燻製豆腐(400円)をチョイス。今回は、すっきりとしていてキレのいい「小粋なすずめ」と塩辛は特に相性が抜群でした。燻製豆腐はまるでスモークチーズのような触感と味わいで、お米の旨みが味わえる「三日踊」と合わせるとお互いを引き立て合います。「名酒センター」のおつまみには、「三種珍味セット」(500円)などもあって、色んなお酒に色んなおつまみを合わせるという飲み方も気軽に楽しめて、お酒好きにはたまらないですね。
▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)
「名酒センター」のお客さんの顔と声
色々と飲み比べているうちに、美味しい日本酒との出会いを求めて、お客さんがどんどんお店に入ってくる。若いカップルからお年寄りの方まで、日本酒の人気は老若男女問わず、と改めて感動する。もうしばらくすると、若い外国人4人グループが来店。そういえば、名酒センターでは、壁に貼られている日本酒の解説や各酒瓶にぶら下がっている詳細情報も、すべて丁寧に日本語・英語対訳で書かれている。
最初は特に外国からのお客さんを意識していたわけではないが、海外の某口コミサイトにレビューが載ったのを機に海外からの客さんが増え、今は日本語が分からないお客さんでも日本酒を楽しめるお店を目指している、と語る「名酒センター」の竹林ゆうこさん。最近は、毎日少なくても1組は来るという。その日はお休みでお会いできなかったのですが、アメリカ人のスタッフも一人雇われ、店内の英語表記がさらにパワーアップしているもよう。
▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)
せっかくなので、その日来店した外国からのお客さんの話を聞いてみることに。4人はアメリカ・ワシントンDC出身で、10日間ほど観光に来ている。全員日本は初めてで、日本の代表的な文化を楽しみたいという理由で、美味しい「SAKE」を求めて名酒センターに辿り着いたという。
まったく先入観無しで初めての日本酒を口にする若い方の感想を聞いていると実に面白い。一人の女性が「まるで水みたいで、お酒の味が全然しないこれが好き!」と言っている一方、別の男性は「ウィスキーとは違うけど、しっかりお酒らしい味わいがするこれが好き」という。「最近、海外で人気の日本酒はこれ!」という記事はネットとかでたまに見かけるけど、やはり日本人でも外国人でも、お酒の好みは十人十色。まず出会って(飲んで)みないと自分の好みがわかるはずもないし、そういう意味で「名酒センター」のように、色んな日本酒を、色んな形で楽しめるお店は本当に貴重な存在。
お燗や熟成酒、幅広く楽しめる日本酒の素晴らしさ!
「名酒センター」では、お燗酒コーナーも設置されており、自分の好きな温度に温めてお酒を楽しめることもできます。「美味しい日本酒は冷たくして飲むもの」というイメージを持っている方も多いですが、実はお燗の世界も実に奥深くて、色んな温度帯で味の変化が楽しめるのは、他のお酒にはない日本酒特有の魅力です! 「ホットワイン」や「ホットビール」とは違って、日本酒の中には温めてこそ本来の美味しさを発揮するというお酒もあります。もちろん、おすすめの温度帯はお酒によって違ったりするのですが、お店の方と相談しつつ、お燗酒も楽しんでみてはいかがでしょうか?
また、日本酒はワインと違って「ヴィンテージ」の概念があまり浸透していなくて、「口開けのフレッシュなものが一番おいしい」と思われている人も多いのですが、実は日本酒の「熟成酒」も絶妙に美味で、ファンが多いのです。「名酒センター」では何種類もの熟成酒が揃っているので、デザート感覚で最後の一杯にはぜひおすすめしたいところです(チョコレートを合わせると粋かも!)。
お土産も忘れずに!
名酒センターで色んなお酒を堪能した最後には「ああ~自分のうちでこんな美味しいお酒が飲めたらいいのになぁ~」と思っていませんか? そんなあなたに朗報です! 名酒センターで試飲できるお酒はほぼ全種類4合瓶(720ml)もしくは1升瓶(1.8L)で売っているので、一番気に入ったお酒を購入したらおうちでも楽しめます! 4合瓶はコンパクトで小さな冷蔵庫でも入るし、1升瓶は開けて1~2週間を掛けて繊細な味の変化を味わえるのも魅力的です。自宅用だけでなく、美味しい日本酒を飲んでみたいというお友達や家族へのプレゼントとしてはいかがでしょうか?
お酒の種類と美味しさ。良心的な値段設定。おつまみの豊富さ。そして何よりもお店の方の、日本酒愛溢れる気さくで丁寧な接客。何から何まで「名酒センター」は日本酒を楽しみたい人のためのワンダーランドのようなお店です。日本酒に少しでも興味を持っていたら、ぜひ名酒センターに足を運んでみてほしい。きっと好きな日本酒に出会えるはず!
※浜松町店(東京都港区浜松町2-3-29 磯山第二ビル1F)は閉店しました。
★名酒センター 御茶ノ水店
営業日時:※変更の場合があります。ご確認ください。
火曜日~金曜日 14:00~22:00(LO.食21:00/飲21:45)
土曜日 12:00~22:00(LO.食21:00/飲21:45)
日曜日 12:00〜19:00(LO.食18:00/飲18:45)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
TEL:03-5207-2420
FAX:03-5207-2460
住所:東京都文京区湯島1-2-12ライオンズプラザ御茶ノ水1F
アクセス:JR御茶ノ水駅より徒歩約5分、東京メトロ新御茶ノ水駅より徒歩約7分、JR秋葉原駅より徒歩約10分
公式サイト Twitter Facebook Instagram
●文= 町田慈音(翻訳家、文筆家、飲み歩キスト)
●編集・撮影(iPhone)= 魚住陽向(フリー編集者、小説家)
●撮影= 大山勇一
この記事は「あるかでぃあ」より転載しました。
元記事はこちらから。また、英語記事もご覧ください。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「arKadia」(あるかでぃあ)とは、日本の魅力的な文化情報を世界に発信していくアーク・コミュニケーションズ制作のオウンドメディア。企画から取材・撮影・編集など全てをアーク・コミュニケーションズが制作しています。今後も興味深いカルチャー情報を更新していきます。
「arKadia」(英語ページ) → http://arkadia.tokyo/en/
「あるかでぃあ」(日本語ページ)→ http://arkadia.tokyo/ja/
※各記事内にページ切替(英語 ⇔ 日本語)ボタンも付いています