「マリオ&ルイージ図屏風」の木版画を制作した[芸艸堂]は日本唯一の手摺木版本の出版社!

日本画の歴史ある流派の一つ「琳派」400年と任天堂「スーパーマリオブラザーズ」30周年を記念し、国宝「風神雷神図」をモチーフにした「マリオ&ルイージ図屏風」が制作されて話題となっています。また、その木版画も制作され、90部が限定販売されるとのこと。木版画を制作・発売するのは120年以上の歴史をもつ日本で唯一の手摺木版本の出版社である[芸艸堂(うんそうどう)]。今回は、芸艸堂の素敵なお仕事と、「マリオ&ルイージ図屏風」を観ることができる展覧会の情報をお届けします。(公開:2015年10月22日/更新:2022年2月26日)

「マリオ&ルイージ図屏風」©Nintendo 作 山本太郎 2015年

[芸艸堂]は本来の意味で、日本唯一の「板元」

出版業界では出版社のことを「版元(はんもと)」と呼ぶことが多いのですが、語源をご存じでしょうか。江戸時代は機械印刷がないので木版画が主流。版木の製作から印刷・販売まで一貫して行う書物問屋などが版木を所有していたことから「板元(はんもと)」と呼ばれていました。時代が移り変わり「板」が使われることが減り、「板」は「版」に転じたのです。そして現在、木版画など手摺りの木版本刊行や手摺り技術を活用した美術書の制作をしている「板元」は日本で[芸艸堂]だけです。

(芸艸堂サイトより引用)
(芸艸堂サイトより引用)

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

創業1891年(明治24年)と、120年以上の歴史を持つ[芸艸堂]四代目の山田博隆さんにお話をうかがいました。
「昔から京都の地場産業は着物の染織などが主だったところでした。そういった着物の図案家(デザイナー)さんや工芸作家さん達が参考にする図案本(集)を私どもは出版してきたんです。昔はカラー印刷といえば木版摺でした。1枚の絵や図案をつくるのに色を重ねていくので版木はたくさん必要なんです」(芸艸堂・山田さん)
明治・大正・昭和初期に活躍した神坂雪佳(かみさかせっか)は京都でも有名な画家・図案家。琳派の柄を使い、新しいデザインを提案して、京都の工芸界を活性化させました。その神坂雪佳の図案本などを出版していたのが芸艸堂。

※芸艸堂サイトより。琳派模様(りんぱもよう)百々世草(ももよぐさ)

「当時、雪佳さんの本を出すと、他の出版社は別のデザイナー(図案家)を見つけてきて新しいデザインを提案した本を出すわけです。お互い競い合っていましたね。現代のファッション誌のようなものをイメージしてもらったら分かりやすいかもしれません。『次はこういう柄が流行りそうですよ』とどんどん新しいデザインを出し合って京都の図案家や工芸作家に販売していた。競争があるから次から次に新しいものが増える。そうすると必然的に摺るための版木も増えていったというわけです。所蔵している版木は数えたことはありませんが、推定で10万枚以上ですね」(芸艸堂・山田さん)

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

芸艸堂の経験ある彫師、摺師といった職人さん達の手間と労力によって、平成の世にもしっかりと継承される美しい木版画。その技術は浮世絵や鑑賞作品、美術本以外にも活かされています。扇子、手ぬぐい、絵はがき、便箋・封筒、折り紙、ファイルなど、ついつい集めたくなる和雑貨。木版和綴じノート和の手控え帖、シリーズになっている豆本も世代を超えて人気があります。また、海外からのお客さんも多く、かわいい一筆箋は、縦書きに不慣れな外国人からの要望で珍しい横書きバージョンも販売。どれもオススメですのでぜひチェックしてみてください。

興味深いのは、こういった伝統ある版元がまた新たな販売方法に挑戦していること。
コンビニエンスストアのファミリマートが企画するコンテンツ事業の一つ「ファミマプリント」のぬり絵シリーズにて芸艸堂の「北斎漫画」と「花版画」を発売しています。

※芸艸堂サイトより。→ファミマプリント

芸艸堂(うんそうどう)
[URL]https://www.hanga.co.jp
《京都本店》9:00~17:30(店休:土日祝)
京都府京都市中京区寺町二条南入妙満寺前町459番地
《東京店》9:00~17:30(店休:土日祝)
東京都文京区湯島1-3-6

琳派400年×スーパーマリオ30周年記念「マリオ&ルイージ図屏風」

「マリオ&ルイージ図屏風」を制作した経緯をイムラアートギャラリー(展覧会の企画・制作)の清水雅子さんにうかがいました。

「現代の琳派継承者の一人、画家の山本太郎(イムラアートギャラリー所属)が琳派400年という機会に『何か特別なことができないか』と考えておりました。そんな折に任天堂の『スーパーマリオブラザーズ』が30周年を迎えられると耳にしまして、せっかくでしたらお互いをお祝いするような絵を描かせていただけないかとオファーをさせていただいたのがはじまりです」(イムラアートギャラリー・清水さん)

山本太郎さんは、古典絵画の中に現代の風俗を紛れ込ませたユーモラスな作風で、ニッポン画家とも、現代の琳派とも称されています。
今回の「マリオ&ルイージ図屏風」のモチーフになったのは、俵屋宗達による「風神雷神図」。
「琳派の祖といわれている俵屋宗達の『風神雷神図』は400年もの間、継承されてきた琳派の大切なモチーフ。山本太郎も敬愛の念を強く持っています。そして、任天堂も『スーパーマリオブラザーズ』というキャラクターを企業の宝として守っていますよね。もし、描かせていただくのであればこういう構図がいいのではないかと提案させていただきました。とは言っても実は、山本太郎も私どもみんな『スーパーマリオ』世代なんです (笑)」(イムラアートギャラリー・清水さん)

“MARIO and LUIGI Rimpa Screen” ©Nintendo, Taro YAMAMOTO, 2015

「マリオ&ルイージ図」は屏風だけではなく、木版画として、芸艸堂が制作・販売します。
「屏風だけですと一般の皆様の手元には届きませんよね。こういう機会にせっかくですから木版画を作って、琳派のファンにも任天堂ファンにもお届けできないかと、任天堂と芸艸堂に相談させていただいたんです」(イムラアートギャラリー・清水さん)
「任天堂もイムラアートギャラリーも芸艸堂も、同じ京都の企業です。これに参加して同じ作品が作れるのは光栄ですし、楽しいですね」(芸艸堂・山田さん)

「マリオ&ルイージ図」木版画
展覧会でも注文ができます(芸艸堂、イムラアートギャラリーで直接注文・販売も可能)。
シート価格:15万円(税別)
額装しての価格:17〜18万円(税別)
もちろん「山本太郎」落款が入ります。90部限定で、限定番号入り。
お問い合わせ:[芸艸堂]→ https://www.hanga.co.jp

「マリオ&ルイージ図屏風」は10月23日より『美術館「えき」KYOTO』にて開催される展覧会「琳派400年記念 琳派からの道 神坂雪佳と山本太郎の仕事」で観ることができます。

「なかなか他では観ることのできない興味深い展覧会になると思います。美術を見るための学術的な知識がなくても楽しく鑑賞できるのも魅力です。美術や琳派の作品に普段接する機会のない方々に、気軽に立ち寄っていただきたいです」(イムラアートギャラリー・清水さん)

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日本の美術史にもゲーム史にも残る、ある意味「国宝級」の作品。これをその目に焼き付け、複製を手元に置くというのは現代人として極上の幸せではないでしょうか。
マリオとルイージ、そしてニッポン画家・山本太郎の作品が、京都であなたを待っています。

※このイベントは終了しています
琳派400年記念
琳派からの道 神坂雪佳と山本太郎の仕事

[会期期間]10月23日(金)~11月29日(日)(会期中無休)
[開館時間]午前10時~午後8時(入館締切:閉館30分前)
[会場]美術館「えき」KYOTO(京都駅ビル内ジェイアール京都伊勢丹7階隣接)
[入館料]一般900円、高・大学生700円、小・中学生500円(※優待料金あり)
[主催]京都新聞
[後援]琳派400年記念祭委員会
[監修]河野元昭(京都美術工芸大学 学長)
[協力]株式会社川島織物セルコン、株式会社千總、任天堂株式会社、美術書出版株式会社 芸艸堂、細見美術館、宮崎木材工業株式会社、宮崎家具
[企画制作]imura art planning
[お問い合わせ]ジェイアール京都伊勢丹

●文= 魚住陽向フリー編集者、小説家
●編集=大山勇一、成田潔