各都道府県には、県の花・樹木・鳥がそれぞれ定められています。県の花や鳥をご存知のかたは多いかと思いますが、県の『石』があるのは知ってましたか? 今回は日本地質学会が2016年5月に発表した「県の石」を紹介 & 県の石制定にあたってのお話を日本地質学会の斎藤眞先生に伺いました。(公開:2016年10月20日/更新:2022年3月30日)
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『県の石』を通して地球や地面の下に興味を持ってほしい
各都道府県で産出、または発見された特徴的な「岩石・鉱物・化石」を、日本地質学会がそれぞれ選定したのが「県の石」です。今回は、斎藤眞先生(一般社団法人日本地質学会 常務理事)にお話をうかがいました。
「日本地質学会は2018年に創立125周年を迎えますが、その記念事業の一つとして『県の石』を選定・発表しました。人間は大地の上で生活しているのに、なかなか皆さんの意識は「地質」の方に向かないですよね。だから、なるべく地球や地面の下のことを知ってほしいんです。その第一歩として『県の石』を知って、大地とうまく付き合ってもらえたらいいなと考えて選定しました」(斎藤眞先生)
実はこの選定に1年9カ月もの期間を要したようです。
「選定する時に我々が最初に用いた選定基準がいろいろありました。そのうえで一番重要なポイントになるのは『学術的』な観点と『社会的』な観点です。つまり地域産業に非常に貢献してきた点、そして県民が受け入れやすく誇りを持てる物を選定しようと考慮しました。そうしないと『これはうちの地元の石だよね』と愛してもらえない。こういう観点のバランスに苦慮し、それだけの期間がかかりました」(斎藤眞先生)
地域によって特色のある「県の石」
◆千葉県の鉱物:「千葉石」
写真提供:千葉県立中央博物館
2011年に発見された新鉱物。房総半島南部に分布する前期中新世保田層群の凝灰質砂岩中の石英質脈から発見。千葉県からの新鉱物の発見は初めてであることから「千葉石」と名付けられました(展示場所:千葉県立中央博物館に常設展示|タイプ標本は東北大学総合学術博物館)。
◆新潟県の岩石:「ひすい輝石岩」
カンブリア紀のプレート沈み込み帯深部の熱水が関与した変成作用の産物とされている「ひすい輝石岩」。縄文時代中期に始まる世界最古のヒスイ文化の基本石材です(展示場所:フォッサマグナミュージアム)。
※糸魚川の「ヒスイ」は、日本鉱物科学会の総会(2016年9月)において国石に指定されました
◆福井県の岩石:「笏谷石(火山礫凝灰岩)」
写真提供(所蔵):福井市
古来より採掘されてきた青く美しい「笏谷石(しゃくだにいし)」は福井市中心部の足羽山で採掘されたデイサイト質の火山礫凝灰岩に付けられた名称です。加工しやすい・色が美しいなどの特徴を持っており、福井城の石垣も笏谷石が使われています(展示場所:福井市自然史博物館)。
◆滋賀県の鉱物:「トパーズ」
滋賀県の田上山のトパーズは、かつては多量に産出していたらしく明治20年代には学術論文に記載されています。地元の年配の方からは「昔は山道でもよく見つけられた」との話を聞きますが、現在はきれいな形のものは見つけるのが難しくなっています(展示場所:滋賀県立琵琶湖博物館)。
◆京都府の鉱物:「桜石」
菫青石とインド石からなる六角柱状結晶が、外形を残して細粒白色の雲母に変質したものが桜石です。断面が桜の花が開いたように見えます。桜石は地元では古くから知られ、桜天満宮境内にみられる桜石は国の天然記念物に指定されています。写真中スケールの1目盛りが1mm(展示場所:益富地学会館、髙田クリスタルミュージアム)。
◆三重県の化石:「ミエゾウ」
ミエゾウは、およそ350万年前に生息していた太古のゾウ。最大で全長8メートル、高さ4メートルあったと推定され、今のところ日本国内から化石の発見された陸上哺乳類としては最も大きいのです。迫力あるミエゾウの全身骨格復元模型は三重県総合博物館で見学できます(展示場所:三重県総合博物館)。
◆東京都の化石:「トウキョウホタテ」
※文京区関口(江戸川公園)産/写真提供:神奈川県立生命の星・地球博物館
「トウキョウホタテ」は、徳永重康博士が1906年に東京都北区王子の東京層から記載した二枚貝化石。産地の東京にちなみ名がつけられました。ホタテガイに似ていますが別種の絶滅種です。写真中スケールは5cm(展示場所:北区飛鳥山博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館)。
「県の石」都道府県一覧
都道府県 | 県の岩石 | 県の鉱石 | 県の化石 |
---|---|---|---|
北海道 | かんらん岩 | 砂白金 | アンモナイト |
青森県 | 錦石(鉄分を含む主に玉髄からなる岩石) | 菱マンガン鉱 | アオモリムカシクジラウオ |
岩手県 | 蛇紋岩 | 鉄鉱石 | シルル紀サンゴ化石群 |
秋田県 | 硬質泥岩 | 黒鉱 | ナウマンヤマモモ |
宮城県 | スレート | 箟岳、涌谷の砂金 | ウタツギョリュウ |
山形県 | デイサイト凝灰岩 | そろばん玉石(カルセドニー) | ヤマガタダイカイギュウ |
福島県 | 片麻岩 | ペグマタイト鉱物 | フタバスズキリュウ |
茨城県 | 花崗岩 | リチア電気石 | ステゴロフォドン |
栃木県 | 大谷石(凝灰岩) | 黄銅鉱 | 木の葉石(植物化石) |
群馬県 | 鬼押出し溶岩(安山岩) | 鶏冠石 | ヤベオオツノジカ |
埼玉県 | 片岩 | スチルプノメレン | パレオパラドキシア |
東京都 | 無人岩 | 単斜エンスタタイト | トウキョウホタテ |
千葉県 | 房州石(凝灰質砂岩・細礫岩) | 千葉石 | 木下貝層(きおろしかいそう)の貝化石群 |
神奈川県 | トーナル岩 | 湯河原沸石 | 丹沢層群のサンゴ化石群 |
都道府県 | 県の岩石 | 県の鉱石 | 県の化石 |
新潟県 | ひすい輝石岩 | 自然金 | 石炭紀〜ペルム紀海生動物化石群 |
富山県 | オニックスマーブル(トラバーチン) | 十字石 | 八尾層群の中新世貝化石群 |
石川県 | 珪藻土(珪藻泥岩) | 霰石 | 大桑層の前期更新世化石群 |
福井県 | 笏谷石(火山礫凝灰岩) | 自形自然砒 | フクイラプトル キタダニエンシス |
静岡県 | 赤岩(凝灰角礫岩) | 自然テルル | 掛川層群(大日層)の貝化石群 |
山梨県 | 玄武岩溶岩 | 日本式双晶水晶 | 富士川層群の後期中新世貝化石群 |
長野県 | 黒曜石 | ざくろ石 | ナウマンゾウ |
岐阜県 | チャート | ヘデン輝石 | ペルム紀化石群 |
愛知県 | 松脂岩 | カオリン | 師崎層群の中期中新世海生化石群 |
三重県 | 熊野酸性岩類 | 辰砂 | ミエゾウ |
滋賀県 | 湖東流紋岩 | トパーズ | 古琵琶湖層群の足跡化石 |
京都府 | 鳴滝砥石(前期三畳紀珪質粘土岩) | 桜石(菫青石仮晶) | 綴喜層群の中新世貝化石群 |
兵庫県 | アルカリ玄武岩 | 黄銅鉱 | 丹波竜(タンバティタニス アミキティアエ) |
大阪府 | 和泉石[和泉青石](砂岩) | ドーソン石 | マチカネワニ |
奈良県 | 玄武岩枕状溶岩 | ざくろ石 | 前期更新世動物化石 |
和歌山県 | 珪長質火成岩類 | サニディン | 白亜紀動物化石群 |
香川県 | 讃岐石(古銅輝石安山岩) | 珪線石 | コダイアマモ |
徳島県 | 青色片岩 | 紅れん石 | プテロトリゴニア |
高知県 | 花崗岩類(閃長岩) | ストロナルシ石 | シルル紀動物化石群 |
愛媛県 | エクロジャイト | 輝安鉱 | イノセラムス |
都道府県 | 県の岩石 | 県の鉱石 | 県の化石 |
鳥取県 | 砂丘堆積物 | クロム鉄鉱 | 中新世魚類化石群 |
島根県 | 来待石(凝灰質砂岩) | 自然銀 | ミズホタコブネ |
岡山県 | 万成石(花崗岩) | ウラン鉱 | 成羽植物化石群 |
広島県 | 広島花崗岩 | 蝋石 | アツガキ |
山口県 | 石灰岩 | 銅鉱石 | 美祢層群の植物化石 |
福岡県 | 石炭 | リチア雲母 | 脇野魚類化石群 |
佐賀県 | 陶石(変質流紋岩火砕岩) | 緑柱石 | 唐津炭田の古第三紀化石群 |
長崎県 | デイサイト溶岩 | 日本式双晶水晶 | 茂木植物化石群 |
大分県 | 黒曜石 | 斧石 | 更新世淡水魚化石群 |
熊本県 | 溶結凝灰岩 | 鱗珪石(トリディマイト) | 白亜紀恐竜化石群 |
宮崎県 | 鬼の洗濯岩(砂岩泥岩互層) | ダンブリ石 | シルル紀〜デボン紀化石群 |
鹿児島県 | シラス(主に入戸火砕流堆積物) | 金鉱石(自然金) | 白亜紀動物化石群 |
沖縄県 | 琉球石灰岩 | リン鉱石 | 港川人 |
***
今回の「県の石」選定で惜しくも漏れてしまった鉱物・岩石・化石もあります。
「選定からは落ちてしまいましたが『惜しいね。もったいないね』『他にも良い石あるよね』という石を紹介するためにも記念出版物制作を考えています。日本地質学会として、正しい知識を公表して、それが一般にどんどん広がればいいなと思っています。『こんなこと何の役にも立たない』なんて思われるのが我々研究者は一番がっかりする(笑)ことなので。関心を持ち、展示してある博物館で見学し、「県の石」を活用してもらいたいですね」(斎藤眞先生)
今回、日本地質学会や斎藤眞先生、「県の石」画像ご提供くださった皆様、ご協力いただきまして、誠にありがとうございました!
★「地質の日」について
毎年5月10日は「地質の日」です。「この地質への理解を推進する日」として、2008年に制定されました。「地質をより身近に感じてほしい」と様々な記念イベントが全国各地の博物館・大学で開催されています。各博物館のサイトもぜひチェックしてみてください。
◆日本地質学会
http://www.geosociety.jp/
●文= 魚住陽向(フリー編集者、小説家)
●編集=大山勇一