街全体がモダンなビルの博物館! 銀座を歩いて学ぶ建築見学ツアー

観光客で溢れる銀座の街で興味深い見学ツアーが行われています。その名も「銀座の近現代建築めぐり」。ただ歩いて回るだけではなく、建築史家の先生が有名建築家の作品(=ビル!)、建築様式や歴史などを案内・解説してくれる本格的な見学ツアーです。今回から通常の日本語コースに加え、外国人からの要望に応えて英語コースも開始とのこと。建築に関しての特別な知識がなくても興味深く学べて楽しめる見学ツアーのもようをレポートします。(公開:2015年11月24日/更新:2022年1月24日)

銀座の近現代建築めぐり「Architectura Ginza」
[日時]2015年11月1日(日)10:30〜12:00(英語コース)/15:00〜16:30(日本語コース)
[主催]銀座たてもの展実行委員会 Architecture Exhibition in Ginza

詳しい解説付きで建築物を知る、新しい街歩きツアー

とある秋晴れの日曜日、東京・銀座で「銀座の近現代建築めぐり Architectura Ginza」という催し物が行われました。これは、銀座にある近代建築の巨匠・丹下健三や黒川紀章、伊東豊雄、坂茂といった著名な建築家の作品を歩いて巡るという見学ツアー。「作品」といっても街の中に現在もある「ビル」たちを見て回り、戦前から戦後の高度経済成長時代を経て、現在へと受け継がれる建築の味わい方を学びます。午前・午後とも定員10名と少人数。
それぞれの建物の歴史や見どころなどを案内人・建築史家の禅野靖司(ぜんのやすし)先生が分かりやすく解説してくれます。
ちなみにこの見学ツアーは、「中央区まるごとミュージアム2015」のイベントの一つとして開催されました。まさに銀座という街全体がまるごと建築博物館ということですね。

[案内人プロフィール]
禅野 靖司(ぜんの やすし)
東京生まれの建築史家。カリフォルニア大学ロサンゼルス校とコロンビア大学大学院で建築史・理論を専攻。現在は青山学院女子短期大学等で講師をつとめる。今秋より建築ツアープロジェクト「アルキテクトゥーラ・トーキョウ」を始動。
※「アルキテクトゥーラ」とはラテン語で「建築」。

[近現代建築めぐりコース](2015.11.1)※( )内は竣工した年

①静岡新聞・静岡放送ビル(1967年)→ ②電通銀座ビル(1934年)→ ③泰明小学校(1929年)→ ④ソニービル(1966年)→ ⑤メゾンエルメス(2001年)→ ⑥ルイ・ヴィトン銀座並木通り店(2004年)→ ⑦第一菅原ビル(1934年)→ ⑧東京銀座資生堂ビル(2000年)→ ⑨銀座六丁目プロジェクト(2016年竣工予定)→ ⑩銀座ライオンビル(1934年)→ ⑪ニコラス・G・ハイエックセンター(2007年)→ ⑫中銀カプセルタワービル(1972年)→ ⑬Ginza Kabukiza(2013年)→ ⑭三愛ドリームセンター(1963年)→ ⑮和光(1932年)→ ⑯教文館ビル(1933年)→ ⑰奥野ビル(1932年)→ ⑱川崎ブランドデザインビル(1932年)

10:30 新橋駅スタート〜元・電通本社ビル〜有名ブランドショップビルなど

この日は気持ちの良い秋晴れで、街歩き日和に! 集合場所に続々とツアー参加者たちが集まり、「建築めぐり」のスタートです。

樹木のようなシルエットが特徴的な静岡新聞・静岡放送ビル(丹下健三・設計)

英語コースは、すべて禅野先生が英語で解説。今まで日本語オンリーで行われていましたが、外国人に向けて、初めて「午前の部・英語コース」を設けたとのこと。今回は英語コースにはまだ外国人の方は数名しか参加されていませんでしたが、これから口コミで広がりそうな予感。

モダンな外観に、吉祥天・広目天のレリーフが

▲元・電通本社の電通銀座ビル(現在の本社は汐留)

ルイ・ヴィトン銀座並木通り店

▲ブランドショップビルが多いのも銀座ならでは

11:30 戦前築のビルから2017年竣工予定の建造物まで。1960年代の建築運動を象徴する「中銀カプセルタワービル」も

銀座には歴史的価値のある建造物がたくさん現存しており、まるで「街全体が博物館」のよう。ただ散歩するだけでも楽しめますが、解説を聞き、ビルの建てられた背景や建築家の思いなどを知ることで、よりいっそう街歩きを満喫できます。

▲スクラッチタイルや丸窓が昭和初期の面影を残す、第一菅原ビル(1934年竣工)
▲レンガ色の東京銀座資生堂ビルは、スペイン出身の建築家リカルド・ボフィル設計によるもの

建築家・黒川紀章氏の初期の代表作で、<メタボリズム>を象徴するビル「中銀カプセルタワービル」。建築史上たいへん貴重であるばかりでなく、レトロフューチャーな見た目がたいへんフォトジェニックなビルで、ツアーの参加者もこぞって写真を撮っていました。このビルを題材にしたビジュアルファンブックも出版されています(詳しくは記事の終わりで)。

12:30 銀座中央通りの代表的なビル群〜80年前の高級アパートの中を見学! ほか〜ゴール

今回はなるべくたくさんのビルを見て回る主旨で、約1時間半、普段のツアーより多めに歩きました。大通りを行ったり裏道を抜けたり、結構いい運動になります(笑)。参加される方はスニーカーなど歩きやすい靴を履いてくることをオススメします。

▲銀座らしさを印象づけるシンボルのひとつ「和光」の時計塔
手動開閉式のエレベーター

奥野ビルは1932(昭和7)年に竣工した元・高級アパートで、現在はアンティークショップやギャラリーなどが入っています。貴重な手動開閉式エレベーターが現役で稼働しています。

この日のゴールは「川崎ブランドデザインビル」(1932年竣工)です。現在も保存、活用され「銀座レトロギャラリーMUSEE(ミュゼ)」として2015年の銀座を彩っています。

永遠にそこにあってほしい銀座の建築遺産たち

著名な建築家の名前を全部知らなくても十分楽しめる建築見学ツアー。見ているうちにじんわり分かってきました。何よりも昭和から平成へと銀座の移り変わりを見てきた建物たちが愛おしく感じてきます。メンテナンスは大変そうですが、ステキなデザインのビルは取り壊したりしないでぜひ遺していってほしいと思いますね。

こういった建築見学ツアーは今後も催されるらしいので、興味がある方は機会があればぜひ参加してみてください。参加したら必ず写真が撮りたくなります。あなたにとってのフォトジェニックな建物を探すのも一興ですよ。

[お問い合わせ]
銀座たてもの展 Architecture Exhibition in Ginza
展覧会、見学会、アートプログラム等の企画実施するプロジェクト。銀座1丁目から8丁目をアート、建築、デザインで繋ぐことで新たな銀座の魅力を抽出すると同時に、情報発信につとめ、リアルな銀座を共有することを目指しています。
[URL]https://www.facebook.com/ginzamikke/

『中銀カプセルタワービル 銀座の白い箱舟』 
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
https://twitter.com/nakagincapsule
(株)青月社/2200円(税込)
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今回のツアー・コースにも含まれていた「中銀カプセルタワービル」。その外観を見ただけで魅了された人も多いはず。「部屋はどうなっているんだろう?」「誰がどんなふうに住んでいるの?」と見てみたくなった方はこの本をオススメします。ステキなビジュアルファンブックです(中銀カプセルタワービルに住む「銀座たてもの展」担当キュレーターが取材協力)。
※弊社は制作に関わっていません

●文= 魚住陽向(フリー編集者、ライター、小説家
●撮影=田村裕未(アーク・コミュニケーションズ
●編集=大山勇一