全国に広がる文学・文芸の聖地「文学フリマ百都市構想」とは?

こんにちは。フリー編集者の魚住です。実は小説も書いているのですが、2年ほど前から「文学フリマ」に出店(過去3回)。その出店経験を活かし、「文学フリマ」を外からじっくり見てみようと、今回は取材しに行ってきました。また最近、全国各地にじわじわと広がっていく「文学フリマ」の波も感じていたので、代表者の望月倫彦さんに「文学フリマ百都市構想」についてもうかがいました。「第二十一回文学フリマ東京」レポートとあわせてご覧ください。(公開:2016年1月28日/更新:2022年2月15日)

第二十一回文学フリマ東京
2015年11月23日(月祝) 11:00〜17:00
会場:東京流通センター 第二展示場
(東京モノレール「流通センター駅」徒歩1分)
主催:文学フリマ事務局
URL:https://bunfree.net

「文学フリマ」とは、プロ・アマ問わず、誰もが参加できる文学作品の展示即売会。既成の文壇や文芸誌の枠にとらわれず、文学作品を発表できる場を提供している。また、作り手と読者が直接交流できる場をつくることが目的。

「第二十一回文学フリマ東京」の歩き方

季節は晩秋。枯れ葉舞い散る11月にカメラ担いで「文学フリマ」取材に行ってまいりました。もちろん、事務局には事前に取材・撮影許可をいただいてます。いつもは出店側なので、毎回参加していてもゆっくりと会場内を見て回ったことがありませんでした。この日は一般来場者(入場無料)として「文学フリマ東京」を楽しみたいと、意気込んでの入場です!

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

まず、東京流通センター 第二展示場の入口で「第二十一回文学フリマ東京サークルカタログ」(無料)をもらい、出店者一覧をチェック! 各出店ブースは文学ジャンルによってカテゴライズされています。この会場の場合、1階と2階があるので自分のお目当ての作品がどのあたりにあるのか調べておきましょう。もちろん、前情報なしでブラブラし、インスピレーションだけで好みの文学作品に出会うこともできますよ。

ブースを見て回る前に2階エスカレーター脇にある「見本誌コーナー」で立ち読みもオススメです。各作品にはブース番号シールが付いているので、気に入った作品があれば、ブースに行って購入が可能。出店者さんとお話しできるのも楽しみの一つ。また、新たな情報をゲットできるチラシコーナーにも立ち寄ってみてください。

1階には、主に純文学や大衆小説、SF、ファンタジー・幻想文学、ホラー・怪奇、ミステリー、青春・学園、ライトノベル、児童文学・絵本などの作品を扱うブースが並んでいます。初めての方はちょっと驚かれるのですが、会場内は思ったよりも静か。それは「文学フリマ」では、「音楽など音物禁止」「コスプレ禁止」というルールがあるから。また、文学・文芸好きは静かな人が多いのです。「地味」ですって? 「落ち着いている」って言ってくださいな(笑)。

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

写真 ①コスモス短歌会 白川ユウコさん②A-09「雉子(きじ)の巣」③A-07「東京大学文学研究会」④A-10「帰ってきた青い花」⑤C-69「図書館大学SFがくぶロボットがっか」黒田渚さん⑥C-70「HPJ製作工房」森村直也さん⑦F-08「おおよど漫画制作所」⑧F-28「雑食喫茶」

1階も2階も各ブースの陳列やディスプレイに工夫が見えます。作品も印刷・製本は言うまでもなく、紙質や装丁・デザインにもこだわっていて、個性様々。見た目はほとんど商業本と変わらないものも多いですね。2階の場合、カテゴライズは海外文学、戯曲、恋愛、百合、BL、短編、ショートショート、詩歌、俳句・短歌・川柳、エッセイ・随筆、評論など。「豆本」や写真、イラストもあり、バラエティに富んでいて、まるで雑貨屋さんの様相。歩いているだけでワクワクします。

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

写真 (a)エ-04「東北大学 短歌会」(b)ウ-11〜12「door220」(c)カ-09「目白大学 溝尻ゼミ・昭和探索プロジェクト」(d)エ-61「Cotorilla」(e)エ-58「喫茶モンスター」(f)カ-43〜44「出版評論社」バーバラ・アスカさん(g)オ-29〜30「廃墟探索部」(h)オ-21〜22「推命庵」

「百都市構想」で文学が広がる・つながる

過去に21回も開催されてきた「文学フリマ東京」。東京以外に住んでいる文筆家たちは出店する場合、開催日に合わせて上京していました。ところが!2014年からは「文学フリマ大阪」がスタート。2015年には金沢や福岡でも開催し、岩手や札幌でも開催準備が進んでいます。これは文学・文芸が好きな者たちにとってはありがたい限り。現在準備中の地方・地域以外でも「文学フリマ百都市構想」の意義を感じて、日本全国にその波が広がっているのでしょう。

文学フリマ百都市構想とは、「文学フリマを開催したいと考えている有志を支援すること」「様々な地域で文学フリマを開催すること」「各地域間の交流を生み出すこと」を目的とした取り組みなのです。具体的には、「文学フリマを開催したい」と考えている有志に対し、各地域の事務局でアライアンス(連盟/連合)を組み、開催するための協力体制『文学フリマ・アライアンスプログラム』(具体的な支援内容は、「主催業務に関わるノウハウやマニュアルなど知的財産の提供」「申込受付、出店料決済システムやWEBカタログ、公式WEBの共同利用」など)を提供します。
「全国各地からの『文学フリマを地元で開催したい』という声に応えて、マッチングしてきました。実際に地元の方々が運営できるように我々がお手伝いします」(「文学フリマ」事務局の代表・望月倫彦さん)

今までの実績からノウハウもあるし、シミュレーションもできるのが事務局。相談に乗った上で、より良いタイミングを選びます。
「金沢の場合、北陸新幹線開業という良いタイミングでスタートできました。今年の9月には岩手でも開催します。東北開催をまず岩手にしたのは、宮沢賢治や石川啄木など文学者に縁の地だったからです。もちろん、東北の他県でも需要があれば開催するかもしれません。未開催の地域の方は事務局に相談してみてください」(「文学フリマ」事務局の代表・望月倫彦さん)

地方・地域開催が増えれば、わざわざ上京しなくても済みそうです。ところがおもしろいことに「文学フリマ東京」には未だに東北、北陸、関西、四国から来ている出店者が多いのです。話を聞くと、「地元の文フリと東京、両方に出店しています」「今後開催される地元の文フリに出店するために、雰囲気を知りたくて東京に出店しました」「行ける所は全部出店したい」など、出店の場が増えたことを喜び、活用しています。

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個人的には、夏目漱石や正岡子規ゆかりの愛媛や名古屋、広島、新潟、福島も開催すればいいのに…なんて簡単に考えてしまいますが、このイベントを開催するのは大変なご苦労があると思います。でも、そんな大変な思いをしても開催するのは文学・文芸を愛してやまない人たちがいるから。いつの時代でも全国各地に確実にいる文学・文芸好き。この日の「第二十一回文学フリマ東京」には、出店者・来場者あわせて約3500人が参加したそうです。現代の文学を支えている「文学フリマ」が、各都道府県で開催される日もそのうち来るかもしれません。

●撮影・文= 魚住陽向(フリー編集者、小説家)
●編集=大山勇一