
近年、オーバーツーリズムの問題がニュースで取り上げられることが爆発的に増えています。旅行者と住民――それぞれの立場、目的、環境、欲求。でも、相互に分かり合えていない。そんな問題に「ツーリストシップ」というコンセプトを掲げ、世界に広めようと活動する方々を知りました。外国人観光客でごった返す東京・浅草にて、彼らの「旅先クイズ会」というボランティア活動を取材しましたので、ぜひご覧ください。また、記事末には「第4回ツーリストシップサミット」のお知らせも掲載しています。(公開:2025年8月1日)
オーバーツーリズム問題の現状
コロナ禍が明けてからというもの、外国人観光客が堰を切ったようにどっと押し寄せ、日本全国の観光地がごった返している様子をテレビの情報系番組でよく目にするようになりました。
特にニュース番組の特集では、日本を代表する観光地がオーバーツーリズム問題で悲鳴を上げている報道をよく見ます。
「コンビニ越しに富士山が見える」と外国人観光客が撮影に押し寄せて生活環境が脅かされた件などは記憶に新しいと思います。
■主なオーバーツーリズム問題
文化・景観:観光客の過剰な利用による文化財の損傷、景観の悪化、伝統文化の変質など。
住民の生活:観光客による騒音、マナー違反、私有地への無断侵入、生活道路の妨害など。
環境:ゴミのポイ捨て、景観の悪化、自然破壊、騒音など。
交通:公共交通機関(バス、電車)の混雑、道路の渋滞、駐車場不足など。
私もある時、東京メトロ・日比谷線の通勤朝ラッシュ時に外国人観光客が大量に乗車しているところに遭遇したことがあります。混雑は苦しいけどしょうがない。でも、彼らは停車駅でドアが開いたにもかかわらず、下車する駅ではないようで出入口のど真ん中に立ち、動こうとしません。降りる乗客と乗ってくる乗客、入口を塞ぐように佇む外国人観光客の団体。パニックでしたね。「京都はもっと大変そう」とふと頭をよぎりました。
あの時、どうしたら良かったかというと、英語なり、彼らの言語なりで「一度、電車を降りて、ドア付近に待機し、降りる人が全員降りきったら、それから再び乗車してください」と教えてあげることでした。その場には、私を含めて、英会話が堪能な人はいなかったようです。

ここで、言っておきたいのは、彼らに「悪意はない」ということ。
彼らは「不良」や「不法」外国人ではなく、日本の常識やマナーを知らないだけなのです。
そう、誰かが教えてあげなければ、知ることがなく、ただただ住民vs観光客の構図が悪化するだけだと思います。
また、外国人観光客によるオーバーツーリズム問題に限らず、日本人による国内旅行の中にもマナーを無視した一部の不届き者も存在するようです。特に「聖地巡礼」や「推し活」に絡めたマナー問題は、SNSなどで「炎上」しやすい面があるようで、せっかくの「好きを追求するステキな活動」なのに残念なことです。
外国から来た人にも日本に住む人にもマナーを守る大切さを伝えなければなりません。

ちなみに、京都や沖縄の寺院に外国語で落書きされているニュースを見ますが、落書きするのは外国人だけではありません。日本人の中にも海外旅行して、世界遺産の現地建造物に日本語で落書きする不届き者もいるので、他人(他国)のことは言えません。
ちゃんとマナーを守って、旅行を楽しむ観光客も多いのに、一部のマナー違反のために旅行者全員のイメージが悪くなるのは「もてなす」側と「もてなされる」側の双方ともに不本意ですよね。
そこで立ち上がったのが、田中千恵子さん率いる「一般社団法人ツーリストシップ」の方々でした。
広がる[ツーリストシップ]の活動
まず、「ツーリストシップ」とは、スポーツマンシップのように、「旅先に配慮したり、貢献しながら、交流を楽しむ姿勢(心構え)やその行動」のこと(「ツーリストシップ」公式サイトより引用)。この考え方は世界で初めて提唱している「旅行者行動基準」なのだそうです。
このコンセプトを胸に、「ひとりひとりの旅行者が旅先に配慮し、貢献し、交流を楽しむようになること、また住民も旅行者との交流を楽しんでもらうこと」に取り組んでいるのが「一般社団法人ツーリストシップ」なのです。
●ツーリストシップの4つの基本
では、ツーリストシップとは具体的にどういうものでしょうか。「一般社団法人ツーリストシップ」がWebで示している「4つの基本」がとってもわかりやすいので、紹介しましょう。

①旅先への配慮
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②旅先への貢献

③旅先との交流 ④ホストになる

①から④まで、あえて日本語に翻訳しませんでしたが、書いてある意味を知りたい方はぜひとも「ツーリストシップ」公式サイト(リンク)に行って、その答えを確認してください。
台東区+ツーリストシップ=[旅先クイズ会]
「ツーリストシップ」を広めるために行われている活動の一つが「旅先クイズ会」です。
「旅先クイズ会」とは具体的にどんなことをするのか、東京・浅草で開催されるというので、広報担当者さんに連絡し、取材・撮影許可をいただきました(今回、この記事に掲載している写真は許可をいただいたものです)。

「旅先クイズ会」は様々な観光地で活用できるよう設計されていて、観光地を有する自治体等が「うちでもやりたい!」と手を挙げてくれれば打ち合わせし、開催する運びになります。過去に「旅先クイズ会」(リンク)を開催した各地でのもようも見られますので詳細をご覧ください。
そして、この日の「旅先クイズ会」の場所は、東京都台東区浅草にやってきました!
日本の観光地の玄関のような「雷門」から仲見世通りを通り抜け、世界中からの外国人観光客で溢れかえる浅草寺の宝蔵門のあたりが今回の会場です。
今回の「旅先クイズ会」を行うのは、「一般社団法人ツーリストシップ」の方だけではありません。

神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科の髙井典子教授(髙井先生は一般社団法人ツーリストシップの理事でもあります)のゼミの学生さんたちや社会人ボランティアの皆さん。
そして、台東区文化産業観光部観光課の担当者さんも台東区のはっぴを着て参加です。

実は私、東京の下町が大好きで、台東区鳥越の古い五軒長屋(東京の空襲で焼けなかった地域)に住んでいたことがあります。おかず横丁も三筋湯という銭湯も懐かしいです。台東区コミュニティバス「めぐりん」も大好き。大正モダンなデザインを見るたびにグッときます。
東京の下町や職人さんが好きすぎて、江戸っ子オヤジを主人公にした『天然オヤジ記念物 江戸前不始末』(2007年・第3回新潮エンターテインメント大賞最終選考作品)という小説を書いたこともあります。
だから、台東区+ツーリストシップのコラボともいえる「旅先クイズ会」を楽しみにしていました。
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台東区は、上野、浅草、谷中、蔵前エリアといった大人気観光地があるので、いろいろ大変かつ大忙しです。
[TAITOおでかけナビ] (リンク)もご覧ください。
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スローガン「EDO IT!」を掲げ、リーフレット「台東区の観光マナー」を配布するなど、観光マナー啓発をはじめとした新たな取り組みを実施中なのです。こちらに掲載します。DLも可能(リンク)なので、ぜひ広めてください。

さて、[旅先クイズ会]が始まります。
①まず「あなたはどこから来ましたか?」と、大きな地図に丸シールを貼ってもらいます。ココでのきっかけ作りが大切です。出身地を聞かれると、大半の人は答えてくれます。これは万国共通のようです。
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②楽しいノリで「簡単な○×クイズをしてみませんか?」とお誘い。

③用意されているフリップをめくりながら紙芝居のようにクイズを出題。○×のブザー棒で答えてもらいます。クイズ内容は実施される場所によって変わります。その観光地にちなんだ出題がとても勉強になるんです。
クイズの一部をスライド画像で紹介しますが、この続きやご当地にちなんだクイズは「旅先クイズ会」(リンク)か現地で参加して見てくださいね。
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過去の様子はコチラ(リンク)から見られます。動画(リンク)もあります。観光地で楽しく学べてとても良い活動だなと感心しきりです。
④ちょっとしたアンケートに答えてもらったり、記念品を渡したり、記念写真を撮ったりと、観光マナーや日本の常識を知ってもらい、旅行アルバムの1ページに加えてもらいます。
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この日のボランティアさんは、神奈川大学国際日本学部国際文化交流学科の学生さんというだけあって、皆さん、英語がお上手です。英会話の腕試しやスキルアップなど、世界中の人とコミュニケーションを取ろうという目的があって参加されているから頼りがいのある人ばかり!
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私なぞ、外国語全般からきしダメなので、ジェスチャーだけ大きいへなちょこなおばさんでした(笑)。お役に立てず、申し訳ないです。
イマドキの若者って「Z世代」と言われて、「理解できない」なんて思われているかもしれませんが、この日は皆さんの様子を見て、とてもしっかりしている印象を持ちました。
1980年頃、私が20歳の頃ってこんなにしっかりしていたかな。
「新人類」と言われた私たちの世代。
まわりまわって、令和の「Z世代」とは気が合いそうです。
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英会話が苦手でも「チャレンジしてみたい!」「英語でコミュニケーションとる練習がしたい」という人は誰でも「旅先クイズ会」のボランティアに参加することができます。
全国各地で「旅先クイズ会」は開催されるので、近くで開催されたら参加してみては?
ボランティア募集についてはコチラ(リンク)から。
このページには、公式LINEアカウントの入口があるので、そちらからも「旅先クイズ会」カレンダーや情報を知ることができます。「Q&A」もあるので要チェックです。
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日本国内に住んでいる人でも「旅先クイズ会」のクイズに参加することができます。ボランティア参加以外でもフラッと遊びに来ませんか。
また、「最近、観光客によるマナー違反で住民から苦情が増えている」という全国各地の自治体の皆さん! この活動は外国人観光客に限りません。日本人でも旅のマナーを守らない人もいます。
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そこで、有名観光地を有する自治体からのアプローチも大切だと考えます。
観光客と住民は「vs」ではなく、「+」プラスにして、ともに楽しくコミュニケーションを取れたらステキな社会になるのではないかと思うのです。

■一般社団法人ツーリストシップ(リンク)
公式サイト X Facebook YouTube
* * * *
最後に。
2025年、(株)アーク・コミュニケーションズは創立40周年を迎えました。制作会社として、様々な書籍や雑誌記事、パンフレットやWebコンテンツ制作など、クライアントの要望に応えてきました。
その中でも国内外の「旅行ガイドブック」分野の制作物がかなりの割合を占めます。
■リンク■アーク制作の旅行ガイドブック(一部)
[国内ガイド]
[海外ガイド]
[海外ガイド(るるぶ)ほか]
編集者、カメラマン、デザイナーとその道のプロが多く在席しており、国内外の旅行ガイドブックの分野を支えてきたと思います。
旅の案内として作ってきた「旅行ガイドブック」は、旅行をオススメするアイテムでもあります。
「来てほしい!」と「行ってみたい!」をマッチングするようなお役立ち本を作ってきたつもりです。

だからこそ、コロナ禍が明けた後、観光客や旅行者が増えたことがとても嬉しいのです。
それと同時に、オーバーツーリズム問題を知り、胸を痛めていました。
「旅行ガイドブック」「聖地巡礼ガイドブック」「街歩きガイドブック」などを制作する編集プロダクションとして、「観光マナーやオーバーツーリズム問題を考える」重要性を感じています。
そのうえで今回、「ツーリストシップ」の活動「旅先クイズ会」を取材させてもらいました。
新たな学びを得て、非常に意義のある一日でした。

一般社団法人ツーリストシップの田中さんやスタッフさんの皆さん、ボランティアさんたち、台東区の担当者さん!取材にご協力いただき、本当にありがとうございました。
■第4回ツーリストシップサミット(←リンク)
日時:2025年8月6日(水) 13:30~15:00(受付は13:00〜13:30)
プログラム内容:講演「ツーリストシップとは」&行動集・検定発表/検定紹介/旅先クイズ会 説明・体験/名刺交換タイム(※名刺交換タイムのご参加は任意です)
参加費:無料 ※参加特典として旅行者行動基準の冊子プレゼント!
お申し込みは必須!→https://touristshipsummit04.peatix.com/
定員:350名
主催:ツーリストシップサミット実行委員会
共催:一般社団法人ツーリストシップ、ツーリストシップグローバル株式会社
後援:TCVB公益財団法人東京観光財団、日本政府観光局(JNTO)
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会場:日暮里サニーホール(東京都荒川区東日暮里5-50-5 アートホテル日暮里ラングウッド4F)
アクセス:JR、京成日暮里駅(南改札)より徒歩約1分/日暮里・舎人ライナー日暮里駅より徒歩約3分
●取材・文・撮影・編集・WordPress= 魚住陽向(編集者・小説家)
■アークの制作物■アーク・コミュニケーションズでは、以下のような国内外旅行ガイドブック制作や「ゾンビランドサガ トラベラーズ ガイド」といったマンガ・アニメ聖地巡礼のための旅行ガイドブックも制作しています。




