[公開:2026年8月12日]

はじめに
「そんなの、AIでやればいいじゃないか」
教材や研修資料の制作を担当していると、上司や経営層からこうした声が届くことが増えていますし、たしかにAIは便利です。
プロンプトを入れればあっという間に文章の骨格ができあがり、構成案まで提案してくれます。社内資料や既存マニュアルを貼り付ければ、それをもとに原稿を生成することもできます。
しかし、現場の担当者はどこか不安を感じています。
その不安は正しいと思います。
AIは平均的に「それらしいもの」を作ることは得意ですが、「正確に伝わり、信頼できる」ものになっているかどうかは別の話です。特に専門性が求められる教材や制作物では、AIだけで完成させることには見落とされがちなリスクがあります。
この記事では、編集制作のプロの視点から、AIで作った後に何が必要なのか、そして「誰が内容を担保するのか」という問いに向き合いながら、AI教材制作で見落とされがちなポイントと、監修者・編集者それぞれの役割を解説します。
AIで教材の7〜8割はできるが、残りの2〜3割はどう補うか
AIで教材の7〜8割のたたき台を作ることはできますが、残りの2〜3割を仕上げるには、人間の判断が必要になります。そしてこの差こそが、教材の質を左右する大きなポイントです。

AIを使った教材・制作物づくりが、急速に広がっています。実際、当社でもここ1年ほど「AIで作った資料や原稿を持参いただくクライアントさんが増えてきている」と感じています。
AI活用ならば、時間もコストも削減できますし、まずAIでたたき台を作ってそこから仕上げていくアプローチは、教材制作においても有効です。「とにかく形にする」という最初の一歩を踏み出しやすくなったことは、間違いなくメリットといえるでしょう。
ただし、一つ疑問が残ります。
「AIで作ったものを、そのまま使ってよいのか?」
現場の感覚では「7〜8割は使えるけれど、残りの部分がいまいちどうしても使えない」という声は少なくありません。「9割方はできている」と感じる方もいるでしょう。
内々での検討材料にしたり、頭の整理や大枠としての利用ではおおいに役立ちますが、正式なアウトプットとして外部に公開するにはやはり無理があります。「そのまま公開できないならば、ある意味使えないとしか言えない」という見方もできます。
AIが苦手な「クリティカルな間違い」とは
「AIは誤字脱字をまずしない」というのは事実で、表記のブレや単純なタイプミスはむしろ人間より少ないくらいです。ただし、AIがミスをしないかといえばそうではなく、問題は別のところにあります。

AIは「ハルシネーション」と呼ばれる「知ったようなことを書いてくる」間違いをすることがあります。それらしく、自信ありげに、整った文章を生成してくるからこそ、読み手も見落としてしまいやすい。これがAIのミスの本質です。
具体的には次のような例が想定されます。
| 問題の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 細部の事実が誤っている | 法令の条文番号、数値、固有名詞などが微妙にずれている。 全体の論旨は正しそうに見えるため、見落とされやすい |
| 文脈が飛んでいる | 前提知識の説明が抜け落ち、学習者にとって唐突な記述になっている |
| 現場の実態と合っていない | 一般論としては正しいが、自社の業務フローや現場ルールとは 異なる内容になっている |
| 責任の所在がない | 誰も「これで正しい」と確認していないため、内容の確認が誰かに必要になる |
これらに共通するのは「表面上は正しそうに見える」という点です。
単純な誤字脱字であれば担当者も気づきやすいですが、AIのクリティカルな間違いは、内容をよく知らなければ見抜けません。「知ったようなことを書いてくる」からこそ、読む側もついつい信じてしまいがちです。
担当者チェックだけでは足りない「誰が内容を担保するのか」という問い
AIには、もう一つ気をつけたい性質があります。
ハルシネーションへの対応以外にも、担当者チェックだけでは足りない理由があります。それは、「担当者の判断は担当者の知識の範囲内でしか行われない」という点です。そして、その先に「内容が本当に正しいかどうかを誰が担保するのか」という問いが残ります。

AIで作った原稿や資料を担当者が手直しして仕上げるケースは、多くの企業で見られるようになっています。
では、その手直しされた原稿は「正確で、現場に合っていて、伝わる」ものになっているでしょうか。
以下のことが、担当者が陥りやすい落とし穴として考えられます。
- 「これは当たり前だから説明しなくていい」と省略してしまう
- 専門用語をそのまま使い、読み手には理解できない
- 情報の順番が、学習者にとって自然でない
担当者は内容をよく知っていますが、「内容をよく知っている」ことと「良い教材を作れる」ことは別の話です。「自分はわかっているから、相手もわかるはず」という思い込みが、教材の伝わりやすさを下げてしまいます。
そして、より根本的な問いがあります。
「その内容は、本当に正しいのか。誰が担保するのか」
担当者が「大丈夫そう」と判断しても、それは専門家による確認とは異なります。 コンプライアンスを重視する企業ほど、重要な制作物には必ず第三者の目が必要です。
また、担当者一人では語彙の幅や視点の広さにも限界があります。
AIが誤字脱字をしないからといって、教材としての品質が十分とは限らない。 最終的に「これで大丈夫」と言える根拠をどこに求めるか。この問いを避けて通れないのが、AI時代の教材づくりの実情です。
監修者の本当の役割は、お墨付きだけではないプラスアルファの価値
「誰が正確性を担保するのか」という問いへの答えの一つが、監修者の存在です。
ただし、監修者の役割は正確性の担保にとどまらず、専門的な知見による付加価値にあります。
「監修者」というと、ひょっとしたら、「専門家に名前を貸してもらう」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし監修に入ってもらうのには、もっと本質的な意味があります。

監修を入れる理由は、大きく2つあります。
① 自分たちの判断だけを信用しない
法令の解釈、専門用語の正確な使い方、業界特有の慣行など、これらが正しく反映されているかどうかは、その領域の専門家にしか判断できません。「自分が読んで大丈夫だったから大丈夫」は、担当者の知識の範囲内でしか行われていない判断です。
特に医療・金融・法律などクリティカルな領域では、たとえAIを使って原稿を作ったとしても、監修が必要という前提は変わりません。「AIが作った原稿を監修がチェックするかどうか」という問いに対する答えは、「もちろんチェックする」になります。
② プラスアルファの価値を加える
監修者が原稿を見るのは、誤りを指摘するだけではありません。「ここに一言加えると理解が深まる」「この根拠を示すと納得感が出る」という視点で、教材をより価値あるものに仕上げます。
たとえば料理の教材であれば「ピーマンとネギ以外に玉ねぎも加えると美味しい」というひと言が加わることで、学習者は「そうなんだ、知らなかった」という体験を得られます。企業の教育ツールであれば「ここまでしか書いていないが、その根拠としてこういう背景がある」という一文が入ることで、信用性が増します。
AIが生成するコンテンツが増えるほど、「誰が内容に責任を持っているか」という信頼はより重要になります。専門家の知見と責任において内容を監修する。これはAIには代替できない、人間固有の価値です。
教材づくりで見落とされがちな編集者の「第三者の目」という役割
監修者のこういった視点に対し、編集者の視点はいわば「第三者の目」です。作り手の思い込みを外から見直す視点のことです。具体的には、監修者が内容の正確性を担保するのに対し、編集者は「読み手に伝わるかどうか」を確かめる役割を持ちます。
監修者と並んで、教材づくりで見落とされがちなのが、この編集者の役割です。
AIで作った原稿には、もう一つ別の問題が潜んでいます。それは「独りよがりになりやすい」という点です。
AIはプロンプトを書いた人の意図に沿って動きます。プロンプトを書いた本人には「まさにこれだ」と感じられるものができても、その文脈を知らない第三者には伝わらないことがあります。AIが個人にカスタマイズされた動きをする分、作成者は理解できるが他人に通じるかどうかは意外に難しい点があります。
これは教材制作でも同様です。担当者が「これでいい」と思っても、学習者のことを全然知らない第三者から見れば「もう少しこういう話がいいんじゃないか」という意見が出てくる。そうした意見が言えることが、編集者としての第三者の価値です。

また、編集者には多くの読み物に触れ、実際にそれを作ってきた経験から培われた感覚があります。
「伝わる構成とはどういうものか」「読者はどこでつまずくか」といった判断は、AIにはないものです。AIがコンテンツ生成を担う時代だからこそ、その仕上がりを「人間が読んでどう感じるか」で判断できる目が、いっそう重要になっています。
こうした人間ならではの役割の重要性は、実は今に始まった話ではありません。
業界はこの問いをDTP導入のときにすでに一度経験している
「AIが仕事を奪う」という声があります。しかし、編集・出版業界はよく似た問いに、DTP導入のときにすでに一度向き合っています。 今から20〜30年前、DTP(デスクトップパブリッシング)が登場したときのことです。
それまでデザイン・組版・編集はそれぞれ専門の職人が担っていました。ところがDTPの登場で、一人のパソコンでそれらすべてができるようになり、「編集者も組版ができる」「デザイナーが編集領域まで入ってくる」という役割の境界が曖昧になった時期がありました。
当時、現場では「編集者はいらなくなるのではないか」という声も上がりました。あるいは、編集者が組版まで担当するのではないか、という見立てもありました。しかし、結果はどうだったか。
DTPというツールが普及しても、編集者の仕事や組版担当の仕事がなくなったわけではなく、それぞれの分野の担当者がツールを使いこなしながら、品質の確認は最終的には人間の専門家が行うという形に落ち着きました。

AIの登場も、本質的には同じ構造です。AIはツールとして非常に強力で、作業の効率を大きく上げてくれます。しかし、「誰が担保するか」「読み手に伝わるか」「専門的に正しいか」という問いへの答えは、ツールが出してくれるものではありません。道具が進化しても人の役割は残り、編集・制作の現場は、すでにその答えを持っています。
まとめ
AIはたたき台を作るには有効ですが、フィニッシュには人間の判断が必要です。
AIのミスは誤字脱字ではなく「知ったようなことを書いてくる」クリティカルな間違いであるため、担当者チェックだけでは専門家による確認にはなりません。
その答えとなるのが、監修者と編集者の存在です。
監修者の価値は「お墨付きを与える」ことではなく、正確性の担保と専門知見のプラスアルファにあります。そして、編集者の価値は第三者の目と、読み手に伝わる構成・表現にする編集眼にあります。
よくある質問
Q1. AIで作った原稿を社内の担当者がチェックすれば、監修者は不要ではないですか?何ですか?
A. 社内研修のような「社内で完結する内容」であれば、担当者やその上長の確認で済む場合もあります。
ただし、医療・金融・法律・コンプライアンスなど専門性やリスクが伴う領域では、担当者のチェックは「担当者の知識の範囲内での確認」にすぎません。専門家が内容を監修することとは、意味が異なります。
Q2. 監修の範囲や深さは、どう決めればよいですか?
A. 教材の用途やリスクの大きさによります。
・社外に公開するもの
・コンプライアンスが問われるもの
・健康や安全に関わるもの
などは、精度の高い監修が必要です。
一方、社内教育で使うものやパイロット版として試運用するものは、まず大枠を確認してもらい、改訂時に詳細を整える方法もあります。
Q3. AIで作った教材に監修を入れても、コストに見合いますか?
A. 見合うと言えます。
むしろ、監修なしで公開した後に問題が発覚したときのコスト(信頼の毀損・修正・再配布)の方が、はるかに高くなります。特に全社員に展開するような研修教材では、一度作ったものが長く使われるため、品質向上への投資は合理的と考えられます。
Q4. 編集者と監修者は、どう使い分ければよいですか?
A. 役割が異なります。
編集者は「伝わる構成・表現にする」専門家、監修者は「内容の正確性・信頼性を守る」専門家です。専門性が高い教材ほど、両者が揃うことで「正確で、かつわかりやすい」コンテンツになります。
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アーク・コミュニケーションズが提供するeラーニングコンテンツ制作サービス「ark learn」は、豊富な編集実績を持つ編集プロダクションならではの教材制作力と、クラウド型eラーニングシステム「learningBOX」を組み合わせたサービスです。
医療・法律・金融・技術系など専門性が高い領域の教材制作では、監修者のアサインから監修プロセスの運営まで含めてサポートします。「AIで作った原稿があるが、品質管理をどうすればいいかわからない」「専門知識を正確かつわかりやすい教材にしたい」といったご相談もお気軽にどうぞ。

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この記事について
監修担当プロフィール
成田 潔|アーク・コミュニケーションズ 取締役
横浜市立大学卒業後、アーク・コミュニケーションズに入社。雑誌や書籍、Webコンテンツの企画・編集に多数携わる。携帯ゲーム機やタブレット向けのコンテンツ開発ほか、クラウドファンディングを使った本づくりや、大規模展示会のサポートなど、編集プロダクションの裾野を広げることに尽力。2015年より取締役。
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