【マンガ大賞2022】受賞作『ダーウィン事変』&マンガとネットの関係を考察

こんにちは。アーク・コミュニケーションズの編集者Kです。教養・雑学の書籍や実用書、国内ガイドブックなどを担当しています。最近では『[なるほど知図帳 世界]ニュースがわかる世界地図 2022』を制作。よかったら見てください。ところで3月28日、「マンガ大賞2022」の授賞式に行ってきました。近年、どんどん進化していくネット上のマンガ媒体。紙とデジタルの両方にアプローチしているアークの編集者としては、マンガとネットなどの関係について考えてみました。「マンガ大賞」発起人である吉田尚記さんにもコメントをいただいています。(公開:2022年4月18日)

▲うめざわしゅん先生に代わり、担当編集者の寺山さん(講談社)が登壇

【マンガ大賞2022】大賞は『ダーウィン事変』!

今年で15年目を迎えた「マンガ大賞」。どの作品が大賞になるか毎年、気になっていますが、今年は授賞式に参加できるということで楽しみにしていました。「アークのブログ」としては「マンガ大賞」授賞式の取材は二度目です。

▲歴代の「マンガ大賞」大賞受賞作品の作者によるThanksBoard

大賞受賞作品はネットなどの情報でもうとっくにご存じの通り、うめざわしゅん先生の『ダーウィン事変』です!

【マンガ大賞2022】大賞受賞作品
『ダーウィン事変』うめざわしゅん/講談社

「アフタヌーン」(講談社)連載開始第1回から話題になった社会派マンガ。「テロ」「偏見」「差別」など、現代社会のヒトが抱える歪んだ問題にヒト以外の生き物が向き合う「ヒューマン」ドラマ。
《あらすじ》舞台は現代のアメリカ。テロ組織「動物解放同盟(ALA)」が生物科学研究所を襲撃した際、妊娠しているメスのチンパンジーが保護される。彼女から生まれたのは、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーだった。

6位『トリリオンゲーム』
稲垣 理一郎, 池上 遼一
7位『ダンダダン』
龍 幸伸
8位『【推しの子】』
赤坂アカ×横槍メンゴ
9位『海が走るエンドロール』
たらちねジョン

授賞式にはうめざわしゅん先生は残念ながら欠席。担当編集者の寺山さんが登壇されました。
「うめざわ先生は大賞受賞の一報を受けて、ものすごく驚いていました。大賞が受賞できるなんて思ってもいなかったので。私も自分が担当している作品が受賞して本当に嬉しいです」(講談社・寺山さん)

『ダーウィン事変』はまるでリアルな現代社会の問題を目の前に叩きつけられたような作品で、映画を見ているような感覚になるマンガです。うめざわ先生ご本人はパスポートを持っておらず、アメリカのみならず海外には行ったことがないそう。それなのにアメリカの田舎町の空気感まで描いて、映画好きとはいえ、お見事としか言い様がありません。

▲普段は表情がないチャーリーの貴重な笑顔?

担当編集者の寺山さんの話では「翻訳刊行のオファーが世界各国からかなり来ている」とのこと。これは世界的大ヒットの予感です。アニメ化はもちろんのこと、数年後に実写映画化の可能性をビシビシ感じさせてくれます。

担当している編集者、出版社の立場から「この作品はとにかく一人でも多くの人に読んでもらいたい」「少しでも目立ちたい」という気持ちから「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」という著作権ルールを用いたそうです。具体的一例としてはSNSでの表示は以下のようになります。

この「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」とは何か。「読む」側も「創る」側も、マンガとインターネットの関係の移り変わりを知っておいた方がマンガをより楽しめるようになります。

「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」とは、作品を公開する作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのツールであり、インターネット時代のための新しい著作権ルール。このライセンスには表示種類があり、これを利用することで、作者は著作権を保持したまま作品を自由に流通させることができ、受け手はライセンス条件の範囲内で再配布やリミックスなどをすることが可能になる。

進化し続けるマンガとインターネットの関係!

コミックスの表紙(書影)は許可を取らずとも掲載可能ですが、中身に関しては無許可で掲載はアウトです。ところがインターネット(SNS含む)上ではマンガのセリフを改変して遊ぶ画像コラージュが増え、ネットユーザーはどこまでがセーフかアウトか知らなかったりします。グレーに見えて実はアウトだったりすることが多いのです。

数年前に逮捕された悪質な海賊版サイト「漫画村」の問題も記憶に新しいと思いますが、その頃から見てもマンガとインターネット(デジタル)の関係は変わり続けています。

ニッポン放送のアナウンサーである吉田尚記さんが発起人となり15年前に始めた「マンガ大賞」。選考員を含めたスタッフは未だに手弁当で運営されています。面白いマンガを広めたい・知ってほしいという「マンガ大賞」の姿勢に頭が下がります。

吉田さんは日本一のオタクアナウンサーとして、マンガ読書量も所蔵量も桁外れ。かくいう私も自宅の2部屋がマンガで埋め尽くされ、床が抜けそうな状態ですが(写真参照)。圧倒的に私は「紙の本」でマンガを買う・読む派なのです。

▲Kさんのマンガ部屋…地震が来たらどうなるのか心配
▲怖い…怖すぎるよ、Kさん

しかし、吉田アナの場合は、マンガ以外でも「秋葉原オタク」な面でデジタルに精通しており、PC、スマホ、インターネットや電子書籍などの側面からマンガという媒体を考察するコメントをいただけました。

——吉田さんは最近、どうやって新しいマンガと出会いますか?

吉田 もう20年ほど前から、書店ではマンガがシュリンクされるようになって、立ち読みができなくなりましたよね。今まで立ち読みで出会っていた面白いマンガが、今はもうすべてネット上です。暇つぶしの場が書店からネット上に移り変わっています。もう、ネットが面白いマンガとの出会いの場なんです。

——私は「紙の本」で買う派なのですが、電子書籍の良いところも知っています。でも、なかには電子書籍のせいで紙の本が売れなくなったという人もいますが。

吉田 出版の歴史上で、電子書籍だけのベストセラーってまだないんですよ。まぁ、だいぶ変わってきてると思いますが、今はまだない。興味深いのは、紙の本が刊行されてから1週間後ぐらいに同タイトルの電子書籍を出すと、電子書籍の方は売れないらしいです。紙の本と電子書籍を同時に発売すると電子書籍も売れるようです。

吉田 例えば、「思い入れのあるレコードやCD」って誰にでもあるものです。でも、「思い入れのあるMP3データ」ってないんですよ。人間ってやっぱり物がないと執着できないんだなと思いますね。マンガにしても(紙の)単行本があることにすごく意味がある。でも、「置く場所をとってしまう」「今すぐに読みたい」といった理由でゴースト(=電子書籍)を買っているイメージなんです。今は、スマホの無料配信サービスでマンガを読んでいる人たちも「これが本である」ということを知らない人はいないですよね。だから、人は物にしか執着しないと考えています。

——そもそもマンガとネット、特にSNSの相性ってどうなんでしょう?

吉田 マンガって、紙の出版文化に最適化された物なのでSNSとは若干食い合わせが悪い部分が残っていますね。みんな、ポケットに入るサイズのスマホでマンガを読んでいるし……。

吉田 私がやっているポッドキャスト番組「マンガのラジオ」で第1回ゲストの浦沢直樹先生は「ケータイでマンガを読ませるのが許せない」と、浦沢直樹作品は電子書籍化されていなかった。「もうさすがに…」ということで最近は「電子版解禁」されましたが。その時、浦沢先生は「スマホで読むのは許せないけど、タブレットなら許せる」と(笑)。

『マンガのラジオ』とは、ニッポン放送の吉田尚記アナウンサーがゲストのマンガ家やマンガ関係者と語り合う、マンガに特化したポッドキャスト番組。

——老眼が始まっている世代にはスマホでマンガを読むのはきついですね。

吉田 スマホはマンガを読むことには最適化されていません。最近は、スマホに最適化されたマンガとして「ウェブトゥーン」が現れて、日本以外ではスマホの縦読みマンガの隆盛がもう始まっている。すでに、「日本はどうなんだろうな」というフェーズだと思います。

Webtoon(ウェブトゥーン)は、スマホ向けの縦読みスタイル(縦スクロール形式)が最大の特徴。韓国が発祥のデジタルコミックで、台湾、タイ、日本などのアジアをはじめ、北米にも人気が広がり、スマホで読むマンガのスタンダードな形式になりつつある。

——マンガの世界もどんどん変化していてついていけないです (笑)。

吉田 マイナスな面ばかりではありませんよ。ある少女マンガ界の大御所の先生が、テレビで仕事の仕方を公開されてるのを拝見しました。現在は液晶タブレットでマンガを描かれているそうです。液タブだと、拡大して描ける。目が弱くなったけど、デジタルを使うことによって、現役のマンガ家として続けていられるそうです。だから、マイナスばかりじゃない。本来、デジタルってそういう物だと思います。

——なるほど。興味深いお話をありがとうございました。

* * * *

吉田アナの「デジタルは人の役に立つためにある」というお話おもしろかったです。

ところで、「マンガ大賞2022」ノミネート作品の欄をもう一度ご覧いただけますか。
昨年と今年、2年連続でノミネートされているマンガ『女の園の星』(祥伝社)。

実は、担当編集者はアークの元社員なのです。残念ながら「マンガ大賞」の大賞は逃しましたが、「このマンガがすごい!2021オンナ編」1位など、名だたる賞やランキングで上位独占なのです。個人的にもこの空気感や脱力感がかなりおもしろくて大好きです! まだの人もぜひ読んでみてください。

●文章協力・編集・WordPress= 魚住陽向編集者小説家
●撮影= 田村裕未(アーク・コミュニケーションズ

■アーク編集者・Kさん制作物の一例