[公開:2026年3月11日]

はじめに
統合報告書の制作において、社内担当者の作業負荷を減らすためにするべきことは、「どこまで社内で実施するか」を明確にし、外部パートナー(外注先)を効果的に活用することです。重要なのは、外部に任せるべき範囲を、「制作作業かどうか」ではなく「どの種類の判断を外部に任せるか」で決めることです。
一般的には、制度・開示要件に関わる判断と経営との合意形成は社内が担い、全体構成の設計・取材・執筆・英語翻訳などのディレクションは外部に委ねることが適切です。
こうした切り分けを行うことで、担当者が抱えていた調整や判断を分散させることができます。また、統合報告書の本旨である、「ステークホルダーに向けた適切な情報発信」を実現するために不可欠な第三者目線は、外部パートナーの見解を取り入れることで担保できます。
この記事では、統合報告書の各セクションを「変えていいか・変えてはいけないか」の判断基準と、社内外の役割分担の具体的な切り分け方を、チェックリストや比較表、事例とともに解説します。
統合報告書の担当者が直面する3つの「判断の壁」
統合報告書の制作を担当していると、「どこまで自分たちでやるべきか」という判断に迷う場面が繰り返し訪れます。その判断が難しい理由のひとつは、外部パートナーに何を期待できるかが、実際に依頼してみるまで見えにくい点にあります。
外注先を「文章を書いてくれる業者」として捉えていると、任せていい範囲も、相談できる範囲も、実態より狭く見積もってしまいがちです。
実際には、「この構成で経営レビューを通過できるか」「前年からどこを変えるべきか」といった判断の整理まで、外部パートナーと一緒に進めることも可能です。
制作作業の代行だけでなく、担当者の判断を支える役割も担えるかどうか。それが、外注先を選ぶ際の重要な視点となります。
壁(1)「去年と同じでいいのか」問題
前年踏襲への不安は、多くの担当者が最初に感じる感覚です。しかし「変えないこと」と「考えていないこと」は別です。どこを変えないかを意識的に選べているかどうかが、社内で説明する際の説得力にも影響します。
壁(2) 「どこを変えるべきか」問題
「変えたい」という意図は正しくても、何から手をつけるかで制作の負荷が大きく変わります。特に「見た目を変えたい」という動機からデザインに先に手をつけると、想定外の工数が発生しやすくなります。
壁(3) 「社内合意が取れない」問題
各部署の意見を全部拾おうとすると、合意は取れません。「どのセクションは変えない」という判断基準を先に設けることで、各部署への説明が「なぜ変えるか・なぜ変えないか」で一貫します。その判断基準をつくること自体を、外部パートナーと一緒に進めることも可能です。
ポイント
これらの悩みに共通しているのは、「自信を持って判断できる拠りどころがほしい」という切実な気持ちではないでしょうか。必要なのは、デザインや文章の良し悪しを判断してもらうことより、「この判断でいい」という根拠を一緒に整理できる相手です。
統合報告書は必ずしも「全部変える必要はない」媒体
「前年踏襲」という言葉にはネガティブな響きがありますが、統合報告書の制作において、前年の内容をベースにすることは実は合理的な判断です。その理由を整理します。

理由(1)変更には「見えないコスト」が伴う
構成を変えれば、社内の確認フローも変わります。各部門への説明、経営レビューでの質疑応答、コンプライアンス対応など、「変える」こと自体のコストを見積もらずに「とりあえず変えよう」とすると、プロジェクト全体が停滞しかねません。
理由(2)「変えない」ことでリソースを「変えるべき部分」に集中できる
全体を変えようとすると、どこも中途半端になります。「変えなくていい部分」を明確にすることで、限られた時間と人員を本当に変えるべき部分に集中投下できます。
理由(3)継続性は投資家にとっての価値である
統合報告書は経年で比較される媒体です。前年との連続性はそれ自体が価値であり、構成の安定が読者にとっての利便性につながります。
「変えていい部分」と「変えてはいけない部分」を5つの観点で判断する
各セクションを変えるかどうかは、以下の5つの観点で仕分けると判断しやすくなります。
| 観点 | 変更方針 | 注意点・条件 |
|---|---|---|
| ① 制度・開示要件に関わる部分 | 原則変更しない | 変更する場合は監査法人など専門家の確認が必須 |
| ② デザイン・レイアウト | 変更可能だが影響範囲に注意 | 全ページ再流し込みが発生し、英語版にまで影響が連鎖する |
| ③ 取材コンテンツ(トップメッセージ・特集) | 毎年更新が望ましい | 経営方針・社会情勢の変化を反映することで鮮度を保てる |
| ④ 既存原稿のファクト部分 | 数値更新で対応可能 | 文章の骨格は活かし、データと固有名詞を最新化する |
| ⑤ 価値創造ストーリーの構造 | 中期経営計画と連動して判断 | 計画遂行期間中は基本構造を維持し、計画改定時に見直す |
「デザイン変更」は手軽に見えて実は影響が大きい
「デザインを変えるだけだから簡単」という思い込みは、制作現場でよく起きる誤解です。実際には、デザインを一新すると全ページの原稿再流し込みが発生し、デザイナーの工数が数倍に膨らみます。
チェック工程や英語版など他言語版がある場合はその制作にまで影響が連鎖し、スケジュールが数週間単位で圧迫されるケースは珍しくありません。
一方で、「コンテンツ変更(取材・原稿の書き換え)」は一見大変に見えても、変更範囲が明確で他ページへの影響が少なく、スケジュール管理がしやすい傾向があります。

変更の「見た目の大きさ」と「実際の影響範囲」は一致しません。ここが制作判断の落とし穴になりやすい部分です。
前年原稿を3分類して制作規模を可視化する
前年の原稿を「全部使える」か「全部書き直す」かの二者択一にする必要はありません。以下のA/B/C分類で仕分けることで、今年度の制作規模と必要リソースを開始前に可視化できます。

社内でやるべきこと、外部に任せたほうが良いこと
統合報告書の制作を「全部外注」する必要はありません。同時に、「全部社内」で対応しようとすると、担当者に過度な負荷がかかります。重要なのは、役割を明確に分けることです。
社内でやるべきこと
- 制作方針の意思決定
経営層との合意形成には署名権限と組織内の力学の理解が必要です。ただし、方針検討の段階から外部パートナーの視点を求めることで、意思決定がスムーズになる場合もあります - 各部署への原稿依頼・回収
部署間の人間関係と優先度を把握しているのは社内担当者です - 最終的なファクトチェック
誤情報の開示リスクは発行企業が負います。自社事業の正確性は社内にしか担保できません - 経営レビューへの対応
経営陣との直接対話は社内担当者が担うべき役割です
外部に任せたほうが良いこと
- 既存原稿の棚卸し・評価
第三者の目線で「読者に伝わるか」を客観的に判断できます - トップメッセージ・特集の取材・執筆
社外のインタビュアーは、社内担当者では引き出しにくい経営者の言葉を引き出せます - 全体構成の設計・壁打ち
複数社の制作経験から「構造と論理」の最適解を提案できます - 校正・ファクトチェック(表記統一)
社内では見落としがちな表記ゆれ・誤記を専門的に検出できます - 他言語版向け翻訳のディレクション
翻訳会社との調整・品質管理・スケジュール管理を一括で任せられます

外部パートナーが「制作代行」以外に担える役割(事例)
制作作業の代行だけでなく、複雑な関係者間の調整や進行の判断まで担えるのが、外部パートナーを活用したときの実質的な変化です。以下の事例で、その具体的な内容を紹介します。
プロジェクトの概要
以前からお取引のあったデザイン会社がIR系媒体の制作を手がけることになったことがきっかけで、編集・取材・執筆・英訳のパートナーとしてご相談をいただきました。期間は約10か月で、年末に相談が始まり、翌年2月にチームとして本格始動、4月頃から実制作を開始しました。
複数チームが関わる体制の中で
このプロジェクトはコンサルタントチーム・デザイン会社・当社編集担当という体制での進行でした。それぞれの専門領域が異なるため、クライアントが求めていることを1チームとして受け止め、スムーズな情報共有の仕組みをつくることが求められました。編集担当がその調整役を担うことで、各チームが自分の専門に集中できる体制をつくりました。
| 関係者 | 主な役割 |
|---|---|
| クライアント(金融機関) | 最終承認・素材提供 |
| コンサルタントチーム | 要件定義・クライアント対応 |
| デザイン会社(進行役・デザイナー) | ビジュアル制作・進行管理 |
| 当社(ディレクター+外部スタッフ) | 編集・取材・執筆・英訳・進行支援 |
当社が実際に担った「制作」以外の役割
通常の編集プロダクションの役割(取材・執筆・編集)に加えて、以下を担いました。
- デザイン会社の進行役に対して、次に必要な動きをアドバイスする「編集プロセスの指導」
- クライアントの最新修正稿とデザイン会社側の作業稿の差分管理と整合確認
- デザイナーの稼働が落ちる時期(夏季休暇等)を先読みして早期に作業を進める「バッファ管理」
このプロジェクトの成果
プロジェクト終了後、翌年度の契約継続が決定しました。また、同一クライアントネットワーク内で複数のIR関連媒体への展開が生まれ、1つの統合報告書案件から複数の継続・横展開受注につながりました。
この事例が示すのは、外部パートナーの仕事が「制作作業の代行」にとどまらないということです。複雑な関係者構造の中で、担当者が一人で抱えていた調整や判断を分担できる余地は、思っている以上にあります。
よくある質問
Q1. 統合報告書の制作を編集プロダクションに依頼するメリットは何ですか?
A. 「変えるべき部分」と「守るべき部分」の判断基準を提供し、社内調整を行うための役割分担の整理や設計・取材・執筆・校正・他言語版ディレクションまでを一貫してサポートできる点が主なメリットです。制作代行ではなく、担当者の判断負荷を下げる「判断支援」としての機能が最大の価値です。
Q2. 統合報告書の制作期間はどれくらいかかりますか?
A. 一般的に6〜10か月程度が目安です。準備・設計に約2か月、実制作に4〜6か月、英語版制作に1か月以上が必要です。「年末に声がかかる」ケースの場合、翌年2月には制作チームが始動している状態が理想的です。
Q3. 全部外注することはできますか?
A. 可能ですが、制作方針の意思決定・各部署への原稿依頼・経営レビュー対応は社内担当者が担う必要があります。「全部外注」ではなく、社内タスクと外注タスクを明確に分けた「部分外注」が現実的な進め方です。
Q4. 前年の原稿をベースに制作することはできますか??
A. できます。前年原稿を「そのまま使える(A:約10%)」「アップデートで済む(B:約30%)」「書き直しが必要(C:約60%)」の3種に仕分けることで、工数と費用を最適化できます。
Q5. デザインだけを変更することは可能ですか?
A. 可能ですが、デザイン変更は全ページの原稿再流し込みが発生するため、コンテンツ変更より影響範囲が広くなります。「手軽に見えて実は影響大」という点を制作パートナーと事前に確認することをおすすめします。
Q6. 英語版など他言語版制作にも対応していますか?
A. 対応しています。翻訳会社との調整・品質管理のディレクションを含めてお引き受けします。例えば英語版作成の場合、日本語版完成後に最低1か月以上の期間確保を推奨します。
Q7. 特集記事の取材・執筆だけ依頼することはできますか?
A. 可能です。全体受注・部分受注のいずれにも対応しています。特集記事の取材・執筆のみ、トップメッセージのインタビュー・執筆のみといったご依頼も承ります。
アーク・コミュニケーションズの統合報告書制作サービス
アーク・コミュニケーションズは1985年創業、約50名の編集者が在籍する編集プロダクションです。統合報告書をはじめとしたIR・サステナビリティ関連媒体の編集・制作において、構成設計・取材・執筆・他言語版ディレクションまで、全体受注・部分受注のいずれにも対応しています。
- 一般社団法人 日本編集制作協会(AJEC)会員
- 公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会 会員
- 日本編集制作大賞グランプリを複数回受賞
「今年の統合報告書、どう進めようか」とお悩みの際は、お気軽にご相談ください。
この記事について
監修担当プロフィール
成田 潔|アーク・コミュニケーションズ 取締役
横浜市立大学卒業後、アーク・コミュニケーションズに入社。雑誌や書籍、Webコンテンツの企画・編集に多数携わる。携帯ゲーム機やタブレット向けのコンテンツ開発ほか、クラウドファンディングを使った本づくりや、大規模展示会のサポートなど、編集プロダクションの裾野を広げることに尽力。2015年より取締役。
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