手書き提灯専門「ホンズ商店」で伝統を学び、手塗りを体験:Ustラヂオのロケ訪問記・第1回

今回からインターネット番組「Ustラヂオ」によるロケ訪問記をお届けします。「アークのブログ」では以前から、伝統的な技術を持つ職人さんや興味深い取り組みをしている企業、町工場などに着目しており、積極的に取材していきたいと考えていました。そんななか、「ロケ訪問記」を行っていた「Ustラヂオ」と意見が一致し、「アークのブログ」にて連載をいただく運びとなりました。まずは、第1回の「提灯の手描き文字職人」さんのロケの様子をご覧ください。(公開:2018年8月3日/更新:2022年3月5日)

▲左から本圖新一さん、松永真穂さん、グレート義太夫さん(写真は動画からキャプチャーしたものです。被写体ブレはご容赦ください。以下同)

「Ustラヂオ」とは?

はじめまして。「Ustラヂオ」と申します。月曜日の夜に「FRESH LIVE」で配信しているインターネット番組です。

ラジオと名乗っている通り、「映像はあくまで補助」をポリシーとして2013年4月にスタート。埼玉県草加市生まれ、草加市育ちの中の人が、草加市にスタジオを設営し、タレントさんが出演する番組を作っています。

地縁もあり、草加市内にある会社やお店を紹介するコーナー「草加めぐり」が番組内に誕生。「Ustラヂオ」に興味を持ってくれたアーク・コミュニケーションズさんが「これは草加の話であって草加の話ではない。日本の今の話だ!」と、何だかデカいことをおっしゃってくれたのにつけこみ(笑)、「ロケ訪問記」を連載させてもらうことになりました。番組ともども、ご愛顧のほどをよろしくお願い申し上げます。

さて、「草加市というと、せんべい」しかないと思っていませんか? 草加市民の中の人もそう思っていました。ですが、実は「ものづくりの街」でもあるのです。今回は提灯の手書き文字職人・本圖新一(ほんず・しんいち)さんが営む「ホンズ商店」に、レポーターのグレート義太夫さんと松永真穂さんが訪問しました。

★レポーター紹介★
グレート義太夫(ぐれーと・ぎだゆう)
お笑い芸人、タレント。言わずと知れた「たけし軍団」の一員。ミュージシャンでもある。「Ustラヂオ」では他のパーソナリティたちの良きお父さん(おじいちゃん)的な存在であり、癒し系である。
ブログ:https://ameblo.jp/gidayu/
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松永真穂(まつなが・まほ)
元声優。現在は芸能活動を休止。

「墨すり3年、文字書き8年」

この時期、お祭りや盆踊りでよく見かける提灯。夏を感じさせてくれますよね。本圖さんは50年以上、その提灯に文字を書き続けてきた方です。

……と聞いても、いまいちピンとこない人が多いハズ。具体的な方法に至っては、想像もつかないでしょう。

では、まず「何を使って」から説明していきましょう。今は塗料を使っていますが、昔は墨だったそうです。筆で文字を書くとき、硯に水を少し入れてする……。その墨です。書道に使う分をするのでも大変なのに、提灯の文字を書くためにはその10~20倍の量が必要。そのため、すり鉢の周りにフチをつけて高くし、何本もの墨を入れ、大きなしゃもじ状の棒ですっていたとか。しかも、墨に使われているニカワが腐ってしまうため、保存はできません。毎朝3時間かけてすっていたそうです。良い墨をすれるようになるまでも、年単位の時間を要します。昔はそれも修行の一環で、「墨すり3年」といわれていたそうです。

▲過去に使っていたすり鉢。分かりやすいように、中に大量の墨を入れてくれました

塗りに使うものはできました。次は、どうやって書くかです。結論からいうと、できあがった提灯に書いていきます。当然、表面はデコボコ。

「だから、中に“つっぱり(竹の棒)”を入れて伸ばすの」と、本圖さんはこともなげにおっしゃいますが、絶対に簡単ではありません。商品にできる文字を書けるようになるまで、8年かかるといわれていたとか。墨すりに3年、文字に8年。つまり、10年以上の修行を積まないと、一人前にはなれないということですね。

▲画像は左右にスライドできます(PCの場合、写真左右にある矢印をクリック)

準備は整いました。いざ文字を……といきたいところですが、もうちょっとお待ちを。提灯の文字は、書道のように止め・はね・払いの部分がかすれていませんよね? なぜかというと、文字の枠を書き、中を塗っていくから。その枠のことを「二重文字(ふたえもじ)」と呼ぶそうです。

本圖さんいわく、「良い文字を書くには、いかに形の良い文字を見て真似をするか。下手な師匠の下では、何年修行をしてもダメ。その点、私の師匠である父は東京へ行っても1、2を争うぐらいうまかった」。

▲本圖さんのお父さんが書いた二重文字。この帳面が残っていたから、亡くなった後もやってこられたそうです。ちなみに昭和15(1940)年のもの

そのお父さんも、本圖さんが本格的に修行を始めた数年後に他界。本圖さんはお父さんが残した帳面を見ながら勉強し、生計を立てられるまでになったとか。30年ほど前、お父さんの友だちが遊びに来た際にかけられた、「親父の字によく似てきたね」との言葉を励みに頑張ってきたそうです。

▲本圖さんがお土産にくれた名前入り提灯を手に、ゴキゲンの2人。これぐらいの大きさであれば、一発書き(二重文字を書かない)でできるとか

文字塗りに悪戦苦闘する2人

話をうかがったらいざ実践! あらかじめ本圖さんが提灯に二重文字を書いておいてくれたので、グレート義太夫さんと松永真穂さんが塗りに挑みます。義太夫さんは文字、松永さんは紋です。

が、本圖さんは提灯を手渡すと、「やってみて」と言うばかり。手取り足取り教えてはくれません。お願いしたら一部分は書いてくれましたが、あとは「見ての通り」といった感じ。やはり昔気質の職人。「芸」は教わって身につくものではありません。「見て盗む」能力を持った人だけが残る。だからこそ、高い技術が維持されてきたのではないでしょうか。

▲より高度な技術を必要とする文字の塗りには、グレート義太夫さん(59歳)が挑みます。一番下の「田」は本圖さんが塗りました

話が逸れました。文字塗りに挑んだ2人は、予想通りの大苦戦。手で字を書いてきた歴の長い義太夫さん(59歳)でも大変なのだから、パソコン・ケータイ世代の松永さん(25歳)はいわずもがな。

2人が塗り終わりました。義太夫さんの書いた提灯を見た本圖さんは、しばらく沈黙してから「……うん、まぁ。……初めてにしてはいいんじゃない」。松永さんには「塗料をつけすぎ」と、厳しい評価。体験だろうが初心者だろうが、全身全霊を込めてきたものに対して妥協は許さない。古き良き昭和の職人魂を感じました。

▲松永真穂さん(25歳)は、紋の塗りに挑戦。すでに塗ってある1カ所は、本圖さんがお手本として塗ってくれました

後継者なきホンズ商店

義太夫さんの「後継者はいるんですか?」の問いに、「いない」と答えた本圖さん。前に触れたように、一人前になるには10年以上の修行が必要です。生活様式の変化も、後継者育成を難しくしています。イスでの暮らしに慣れた若い人は、長い時間、床に座っていられないのだとか。

さらに今はコスト面から印刷が主流。シールのようなものに文字をプリントし、提灯に貼り付けるのだそうです。また、東日本大震災以降、日本中が慶事を控える雰囲気となり、注文が減っているという現実もあります。

「先の見えない仕事を、若い人に押しつけたくない」

口にはしませんでしたが、本圖さんはそう考えているのではないでしょうか。
最後に、本圖さんは冗談っぽく、こう語ってくれました。

人間国宝になろうと思っていた」

人間国宝とは、「重要無形文化財保持者」のこと。文化庁のWebサイトから抜粋します。

演劇,音楽,工芸技術,その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いものを「無形文化財」という。無形文化財は,人間の「わざ」そのものであり,具体的にはそのわざを体得した個人または個人の集団によって体現される。

国は,無形文化財のうち重要なものを重要無形文化財に指定し,同時に,これらのわざを高度に体現しているものを保持者または保持団体に認定し,我が国の伝統的なわざの継承を図っている。(後略)

提灯の手書き文字は、日本の歴史に深く関わり、芸術的価値が高いものです。その「わざ」を高度に体得した本圖さんも、御年76歳。語弊をおそれずにいえば、現役でいられる年数も限られています。せっかくの技術が次の世代に引き継がれず、幕を閉じてしまうかもしれない……。その前に晴れの舞台に立ってほしいと願うのは、草加市民だけではないはずです。

▲左が義太夫さんの塗った提灯。右が松永さん作。キレイに塗るのがどれだけ難しいかが分かります

「草加めぐり」は、YouTubeチャンネル「Ustラヂオ」で配信中。
アーカイブ公開でもご覧になれます。
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ホンズ商店
住所:埼玉県草加市稲荷3-13-8
TEL:048-936-4577

取材・撮影・文=「Ustラヂオ」中の人
編集=魚住陽向フリー編集者、小説家