東京都農林水産部制作の飲食店ガイドブックのクオリティが高かったので都庁で話を聞いてきました

都内の飲食店で見かけた無償配布のガイドブック。東京産の食材を扱った飲食店を紹介しているのですが、これがなかなか出来が良いのです。制作は東京都農林水産部、とのこと。どういった経緯でこの小冊子を制作したのか? 思い切って新宿都庁へ、東京都農林水産部の中の人にお話を聞きに行きました。(公開:2016年8月15日/更新:2022年4月8日)

▲左が『とうきょう特産食材使用店ガイド2016』、右は島の食材を扱う島の飲食店にフォーカスした『東京島じまん食材

紹介店舗313店。無償配布とは思えないクオリティ

『とうきょう特産食材使用店ガイド2016』は東京産の食材を使った飲食店を紹介しているガイドブックです。A5判167ページ、紹介店舗は313店におよび、全ての店舗にカラー写真付き。お店の基本データはもちろん、代表的なメニューとその食材情報まで掲載していて、眺めているだけで東京の食材への理解が深まりそうな気分です。

▲お店の情報が見やすいレイアウト
▲このガイドブックを知った居酒屋「魚処 渓」(東京都足立区栗原1-18-8)お総菜のテイクアウトも好評(2022/4/8)
▲巻末資料の「東京産農産物の産地MAP」。どの市区町村でどんな野菜が生産されているか一目瞭然

…というように、「ご自由にお持ち下さい」というテイで置いてあるにしては、かなりしっかりした造りなのです。
このガイドブックはどういった経緯で、どういった思いで作られたのか。制作をしている「東京農林水産部」に話を聞きに、新宿都庁に行ってきました。

「東京産食材のファンを増やしたい」—農林水産部自身で取材・制作

今回は、東京都産業労働局農林水産部食料安全課の鈴木隆さんと佐藤紀子さんにお話をうかがいました。お二人とも食品情報ご担当です。

「まずは『東京産食材を食べてもらうことで、その魅力を知っていただく』のが目的で、ガイドブックを発行しています。やがて、東京産食材のファンや応援団になっていただいて、その輪が広がっていけばいいなと考えているんです」(鈴木隆さん)

東京都農林水産部ではまず、平成22年度から「とうきょう特産食材使用店登録制度」を開始しました。東京都産食材を使って料理を提供している東京都内の飲食店が申請→審査を経て、登録され、ガイドブックで紹介される仕組みです。

「登録審査会にて、外部の先生に登録要件に合致しているか見ていただき、そのうえで登録認定となります。毎年どんどん申請してくださるお店も増えています」(鈴木隆さん)

▲東京・足立区にある「つまみ菜」のビニールハウスと隣接する野菜直売所(画像は左右にスライドできます)

「東京産にはおいしい野菜はもちろんのこと、『江戸東京野菜』という種類もあるんですよ」(佐藤紀子さん)

ガイドブックの編集を担当した佐藤さん。食への飽くなき探求心から「江戸東京野菜コンシェルジュ」という資格も取得されたそうです。「食べることが好きなんです(笑)」と謙虚に微笑まれましたが、掲載されているお店をほぼ記憶されていてびっくりしました。

※ 江戸東京野菜は、練馬ダイコンや谷中ショウガなど、現在42種類が登録されている。江戸期から始まる東京の野菜文化を継承するとともに、種苗の大半が自給または、近隣の種苗商により確保されていた昭和中期(昭和40年頃)までのいわゆる在来種、または在来の栽培法等に由来する野菜のこと。
参考:JA東京中央会 | 江戸東京野菜

『とうきょう特産食材使用店ガイド2016』
サイズ:A5版167ページ
紹介店舗:313店(区部115店、多摩地域198店)
配布場所:東京都庁第一庁舎展望室PRコーナー、東京都観光情報センター、紹介店舗店頭など(無償配布)
Facebookページ「東京都農林水産部」→https://www.facebook.com/shokuryoanzenka/
※写真の『東京 島じまん食材2016』は、同課の別のご担当者が制作されています。

『とうきょう特産食材使用店ガイド2016』は3万部発行(本年度版)されて、好評のため品切れ店も続出のようです。今後、増刷される予定とのこと。東京都観光情報センターなどで無償配布されているので、ぜひ入手してみてください。そして、ガイドブック片手に登録店にでかけ、東京産食材のおいしさを味わってみてほしいと思います。東京都内の野菜直売所で買った旬の野菜は最高においしかったですよ!

とうきょう特産食材使用店「日本橋室町 豊年萬福」

『とうきょう特産食材使用店ガイド2016』から勝手にアークがセレクトした店が「日本橋室町 豊年萬福」です。
この店は「日本の食をテーマに『学ぶ・味わう・知る』文化情報発信型飲食店。江戸時代に商業の中心地であった日本橋にあり、印象的な外観・内観ともに歴史と風格を感じさせてくれます。

料理に使用される食材は東京産はもちろんのこと、四季を感じる旬の食材も多彩。自慢の特注蒸篭でもち豚、江戸東京野菜や旬菜を卓上で蒸す「もち豚と江戸東京野菜の蒸篭蒸し」(1人前1280円 ※2人前から)が人気のメニューです。また、老舗協力のもと考案されたメニュー構成も日本橋ならでは。「日本橋 神茂(かんも)」のはんぺんを使った「手取りはんぺんの炙り焼き」(680円)や「にんべん」の鰹節をふんだんに使用した「釜揚げ白州と焼薄揚げのにんべんさんおかかサラダ」(860円)もオススメです。

▲画像は左右にスライドできます

日本酒の種類も多いですが、「豊年萬福 純米吟醸」(180cc 1000円/380cc 2000円)は、新潟県佐渡市「北雪酒造」協力で、朱鷺認証米「五百万石」使用のオリジナル銘柄。大辛口。ソムリエ推薦酒でもあるそうです。
飲食だけでなく物販コーナー「豊年市場」があり、座学・展示イベント開催など、無形文化遺産「和食」の情報を世界に向けて発信しています。特に注目したのは、外国人に分かりやすい英語サイトをオープンさせたこと。その内容もお店のことだけでなく、「日本酒について」「日本橋の歴史」「観光ガイド」など、外国人観光客誘致を幅広く見越しての広報活動は要チェックです。

「日本橋室町 豊年萬福」はこの地域の再開発に伴い、2020年3月31日に閉店しました。
住所:東京都中央区日本橋室町1-8-6

●撮影・文・編集=魚住陽向フリー編集者小説家
●撮影・編集=大山勇一