【長編】いろいろうるさい舞台好きが原作知らない2.5次元舞台に行っても楽しめるのか【後編】

情報誌編集に携わってる大塚と申します。2016年初夏、銀座、博品館劇場にて「歌劇『明治東亰恋伽~朧月の黒き猫~』」を観劇してきた件の顛末です。前編はこちら。(公開:2016年8月30日/更新:2022年4月22日)

☆歌劇「明治東亰恋伽~朧月の黒き猫~」
歌劇「明治東亰恋伽~朧月の黒き猫~」
http://kageki-meikoi.com/

劇場に向かうエレベーター
劇場に向かうエレベーター。公演前は無駄にドキドキします

その6 物販事情

やっと当日の話です。しかし、観劇の前にまだお伝えしたいことがございます。「物販」についてです。
基本的に2.5次元舞台で販売するグッズは、パンフレット、ブロマイドが主です。また最近では原作作品のイラストグッズがある場合があります。「めいげき」では以下のものを販売しておりました。

・パンフレット
・ブロマイド(個人セット3枚1組)全8種
・ランダムブロマイド全24種(÷全8キャラ=1キャラ全3種)
・ランダム缶バッチ(キャスト)全16種(1キャラ全2種)
・ランダム缶バッチ(原作イラスト)全9種
・ランダムアクリルキーホルダー(原作イラスト)全9種

そして購入特典には、【5,000円以上お買い上げの方を対象に舞台上でのキャスト集合写真(2L)をプレゼント! 集合写真は、ポーズ・表情違いの3種類をご用意。いずれか1種をレジにてお渡し致します。なかには直筆メッセージ入り舞台写真が数量限定で入っています。】と。
これは恐ろしい商法です。今日のキャラクターグッズ(アニメその他諸々)は、ほぼ6割はトレーディング、ランダムであるのが実情です。その風潮が、2.5次元舞台の物販にも浸透していてできたのが「ランダム(トレーディング)ブロマイド」だと思われます。
好きなキャスト(キャラクター)の写真が、なんと! 選べません! そのため、コンプリートしたい方は必要以上の枚数を買います。そして設けられる「購入制限」。欲しいものは手に入らず、ダブる同じブロマイドたち……。悲しいとしか思えません。そこで行われるのが、交換・譲渡であります。会場内で行われることもありますが、SNSを通して取引が行われることもしばしば。もちろん、キャスト(キャラクター)によって人気の度合いもあるので取引が難しく成立しないこともあります。なかには定価200円だったブロマイドが、中古販売ショップで1000円を越えるなんてことは珍しくもないのです。人気キャスト(キャラクター)は恐るべし! この世界は(財布に)厳しいのです。
今回、私も一体どんなものかと5000円分購入いたしました(研究)。パンフレット、個人ブロマイドセット、ランダムブロマイドセット5枚、ランダムアクリルキーホルダー2個。ランダムブロマイドの結果は……。
泉鏡花2種、森鴎外1種、菱田春草1種、川上音二郎1種。こちら中々良い引きでした。でもランダムブロマイドはキャラクターごとですと3種ですので、5枚買ってもコンプリートにはいたりません。世知辛いです。

ブロマイド
ランダムブロマイド(左)と個人セットのブロマイド(右)。ランダムブロマイドは5枚買って4キャラのみ。厳しい世界

ちなみに、「めいこい」で人気なのは、菱田春草と泉鏡花とのこと。そのため、この2人のレートは高いとのこと。人気キャラクターを好きになると、グッズでのランダム・トレーディングには泣かされることを覚悟しないといけないのです。
と、また脱線しましたが。以前はそんなに目にはしなかったのですが、2.5次元舞台ではトレーディング(ランダム)ブロマイドが多くなったと思われます。2度目ですが、好きなキャスト(キャラクター)の写真が、なんと選べない! 悲しいものです。私は欲しい思いもありつつ、金銭的な問題と交換に出す手間を考えるとつい購入に戸惑ってしまうところがあります。それでも、購入制限が設けられたり、売り切れとなったりするので、購入する人が多いのでしょう。実に手のひらで踊らされているというか、なんというか。わかっていても、現状を変えられないこの商売方法には一言「好きなものを選んで買わせろ!」と叫びたいものです。叫びませんが。
会場では円盤(DVD、Blu-ray)の先行予約も受付しております。会場で予約すると、特典グッズが付いたり、はたまたキャストイベントに参加したりすることができます。なので、当日はグッズを購入、円盤を予約、と考えるとそれなりの現金を持って行かねばなりません。忘れると、人からお金を借りるという恥ずかしいことに……(以前、友人からお金を借りてグッズ購入した経験あり。後日しっかりと返却しました)。

その7 「めいげき」観劇感想

やっと舞台の感想です。
ライブ、コンサートや演奏会等では開演前のアナウンスがあります(前アナ)。そのだいたいのものはスタッフ、ナレーターによるものが多いかと思われますが、2.5次元舞台ではほぼ俳優がキャラクターで演じます。それも、日によって違います。日替わりアナウンスなのです。「めいげき」も同じく、キャラクターによる前アナでございました。私が観劇した回は、藤田&八雲でございました。
ほぼ初見の私は、誰が誰なのかわからず聞いていたのですが、隣で友人が優しく教えてくれました。「藤田さん(CV.福山潤)と、八雲さん(CV.立花慎之介)だよ」と。何故、今回の観劇に関係のないゲーム内の声優を教えてくれるのか。それは私が声優オタクだからです。キャラクターに当てられている声優が、わかるとなんとなくキャラクターの立ち位置がわかるという、声優オタクならではの謎スキルがあるのです。
——八雲さんのイメージが、全く違った!
「CV.立花慎之介で、センター分けの眼鏡キャラ」というキーワードのもと、きっと「君はバカなの?」と言ってくるような人を小馬鹿にした態度を取るキャラクターだと思っていたのですが……! すっごいテンションの高い、ルー大柴ではあ〜りまぁせんか〜!? 友人は「似ている! 声、そのまま立花さんかと思った!」と語ってくれました。なるほど、八雲さんはきっと見た目のインテリ眼鏡の冷静なイメージではなく、ルー大柴的な物言いのムードメーカーだと勘付きました。
全くキャラクターを知らなくても、前アナからこのキャラクターはこんな喋り方をするだとか、今回のように二人で担当する際は、その二人の関係性を本編を見る前に想像できます。前アナですら、パフォーマンスのひとつなのです。いわゆる「つかみはOK」で、観客のハートをキャッチします。
博品館劇場はあまり大きなハコ(劇場)ではありません。観客数400人以下です。そのため、ステージは狭いです。出演者9人(うち1名アンサンブル)が横に並ぶとミチミチです。ステージ演出は、後ろ左右にカーテンがあり、そこからも立ち入りができ、そのカーテンを挟むようにスクリーンがありました。そのスクリーンに光を照らし、影絵を作ることで場面展開や、回想、心情を表現しておりました。
会場に流れていた音楽が変わり、客席が暗くなり「歌劇『明治東亰恋伽~朧月の黒き猫~』」の幕が上がりました。主人公である綾月芽衣が登場し、物語が始まります。赤い満月の夜は不思議なことが起こる、と奇怪師チャーリーに導かれるまま彼のマジックにより綾月芽衣は訳も分からず、ふと気がつくと明治時代にいた……。その過程を綾月芽衣の語りと共に歌、音楽で進んで行きます。オープニングでは、綾月芽衣とチャーリー以外の人物は仮面を付けて、アンサンブルとして登場します。その後も、メインが歌う以外の際にはキャラクターではなく仮面を付けてアンサンブルとして歌い、踊るのが演出のようでした。
仮面を付けると、やはり表情が見えない分、不思議な存在に見えます。それがまた、世界観に合っていて、とてもすんなりと見ることができました。

物語を追って、語ると随分長くなってしまうので、割愛しながら感想を述べてまいります。
パンフレットにある曲目を見ると、全24曲。公演時間は2時間10分程、休憩なしです。ポイント、ポイントと話が進んでいくので、展開に疑問を持つことはありませんでした。大丈夫、わからない私でも問題なくついて行けております。疑問っぽいものを持つとしても、それは伏線になるもので後にしっかりと説明されます。
ミュージカルなので、メインに歌うキャラクターを囲うように他のキャラクターが踊ります。派手に。私としては、もう少し大きなハコであれば気にならない演出なのかもしれませんが、博品館劇場ほどの広さですとそれが気になるところが点々とありました。狭いところでギュウギュウに踊っている……と。今回、アンサンブルが1名でしたが、それでも目についてしまう場面があるのが実際のところの本音です。これが「乙女ゲーム」が原作ではない舞台だとしたらなんら気にならないと思うのですが、「乙女ゲーム」だからこそとても気になるのです。
例えば、今回の「めいげき」であれば惹かれあう芽衣と春草の二人の場面であれば、舞台上には二人だけでいいのです。誰一人としていらないのです。二人の心情を表現するモブはいらないのです。なぜならば、二人の心情はすでに観客はわかっているのですから……そこに突然の解説者はいらいないのです! こっちはフィーリングでわかっているので! 逆にいると茶々を入れられているように感じるのです。うるさくて、すいません! でも語りたいのです!

総合的には、私としては観劇できてよかったと思える作品でした。
なぜなら、森鴎外さんがめっちゃ気になる……!!!!!
人物紹介の場面、攻略キャラクター(7人)のビジュアルを見て、私の好きなタイプどれかな〜? と考えていた際、森鴎外と川上音二郎のどちらかだろうと選んでおりました。(乙女ゲームですから)最初、森鴎外の芽衣に対しての振る舞いは「なんだこいつ」と思っていたのですが、話が進むに連れて、春草を心配する姿や高い牛鍋を簡単に奢ってくれる姿(……)などを見ていたら「鴎外さんのこと、もっと知りたい……!」と、気付いたら恋に落ちていました。ちょろいものです。
これもまた、2.5次元舞台(特に乙女ゲーム原作のもの)の醍醐味だと思われます。
私はずっと「大団円(逆ハーエンド)」で終わると思っておりました。そしたら、なんと結末は菱田春草を選ぶ終わり方でありました。この舞台は、春草さんルートだったのです。だからこそ、「え、鴎外さんと恋をする芽衣ちゃんは一体全体どうなるの……」と思ってしまったのです。
乙女ゲームは、選択肢によって結末を決められるゲームです。そのため、舞台のようにひとつの結末に向かっていく構成ですと、それを全て語るには時間が足りなく、当たり障りのないエンドに決められてしまいます。乙女ゲーム原作の2.5次元舞台は、予めアニメ化した作品ですとその物語展開をベースに進んでいくもの、結末は大団円だが日替わりでキャラクターとの親愛を深めるマルチ場面を入れるもの、おおよその流れは同じだが結末を変えていくものと、ざっと3種類になると思われます。人気作品(例えば「薄桜鬼」)であれば、キャストは同じ(多少のキャスト変更ある場合も)でストーリーが異なる「○○編」としてキャラクターごとに上演することもあります。

☆ミュージカル「薄桜鬼」
「薄桜鬼」公式サイト
https://www.marv.jp/special/m-hakuoki/

ここで少しネタバレ。私は最後の最後まで、気付くことができませんでした。今回の「めいげき」のサブタイトル「〜朧月の黒き猫〜」に。ただオシャレだろ?ということで名付けていると思いきや、この【黒猫】が春草ルートのキーワードだったのです。事前に調べるなら、そういうところも見ておくべきだったのですが、すっかり見落としていました。作中、やたら芽衣と春草の絡みが多いな……と思っていたのですが、そういうことだったのですね。しかも、この舞台の終わり方はゲームで言うところの「バッドエンド」だそうで、それを舞台化するとはなかなかのものだと思いました。(おそらく一番感情が激しくドラマチックに見えるもの終わり方になるからだと思いますが……!)

さて、肝心の春草との恋物語ですが、ゲームをプレイしている方にとってはまだまだ語り足りない! と思われるイベントがあったように思われますが、二時間ちょっとの間でうまくまとめたように私は感じました。よく少女漫画などにある「第一印象が良くない→彼女のひたむきさを知る」の過程がわかりやすく、初見の私でも二人が惹かれあっていくのが伝わってきました。
更に見てよかった! フ〜! 最高〜〜〜! と思ったのが、ゲネプロ映像です。

(動画は削除しました)

これぞ乙女ゲームだ〜! わ〜スチル(ゲーム内でのイベントシーンで表示されるイラストのこと)だ! と思いながら、興奮しながら見ておりました。なにせ、キスシーンですからね!(実際していないのが残念ですが、舞台でもリアリティを求めてキスシーンはキスしてほしい派です)。よいものを見せてくれたと、つい拝みたくなりました。場面的にも終盤で、春草の感情が一気に高まり、それが芽衣に伝わる場面ですので、この時会場ではかなりすすり泣く音が聞こえました。みなさん、すごく舞台に魅入られているのが味わえる場面でもありました。

その8 複数回見たくなる仕組み

2.5次元舞台には、必ず俳優におまかせしているアドリブの場面がございます。その場面では、公演によっては登場するキャラクターが変わったり、言い回しのオチが違ったり、一種ブレイクタイムのような場面です。
それを「日替わり」と言っているのですが、今回の「めいげき」でもありました。牛鍋屋「いろは」に芽衣、春草、鴎外と訪れる場面、牛鍋おいしい〜!と歌う場面の後に、日替わりが設けられておりました。内容としては、2人が対決し最後にゲテモノ料理を食べるというものです。私が観劇した回は、音二郎VS八雲で勝負内容は腕相撲。敗者は八雲で、バツゲームはトマトジュース茶漬け。八雲を演じていた汐崎さん、頑張って完食しておりました。他の公演では、鴎外VS春草、チャーリーVS芽衣であったり、勝負内容もジャンケンであったり、バツゲームも青汁茶漬けであったりして、様々な組み合わせで行われていたようです(ちなみにバツゲームの○○茶漬けは、鴎外の好物、まんじゅう茶漬けから来ているそうです)。
「日替わり」は劇中のアドリブ場面だけではなく、公演前のアナウンス(前アナ)、公演後のアナウンス(後アナ)とあります。更には、公演によってはマルチ場面が設けられおり、それによっての「日替わり」もございますし、2月に私が観劇した舞台では本編終了後にミニライブが設けられており、そこでの1曲がキャストの組み合わせが日程によって異なる「日替わり」でありました。
「日替わり」があることによって、ファンは何度か足を運びたいという思いに駆られるのです。観客の4割(推測)は、同じ舞台を数回は見ていると思います。土日ですとたいてい、昼、夜と2回公演が多いですが、その昼公演、夜公演と連続してみる方も少なくはないと思います。言ってしまえば、2回以上観劇して、「日替わり」の違いを見るのも、2.5次元舞台の楽しみ方なのかもしれません。
「日替わり」の他に、アフタートークショー、お見送り(ハイタッチお見送り)と、ファンにとって嬉しい特典が設けられている公演もあります。

その9 まとめ

今回、原作を知らない作品だったため、観劇するまで心配ではありましたが、結果見に行けて大変に良かったと思いました。
まあそもそも普段、劇場へ足を運ぶ際は俳優目当てであるところがある私にとって、完全に原作を知って行くものは2.5次元舞台がほとんどでございます。そのため、海外作品が原作の舞台を見行く際にはその小説を買って、予め読んでということはほとんどせず、当日本番そのストーリーに触れることが多いです。それでも満足感を得て会場を後にするのが常です。それを考えれば、2.5次元舞台も原作を知らなくても楽しめるはずなのですが、原作を知らないとちんぷんかんぷんな表現があることも多々あります。または、原作を知らないと本当に内容がわからないと言ったものもあるのが実状。観劇する前は、不安になるものです。
しかし今回、「めいげき」は春草ルートということで春草と芽衣が中心であることから、ストーリーが入ってきやすく、初見でも見やすく理解しやすかったです。更にその上でもしっかりと他のキャラクターの魅力を伝えており、他のキャラクターが好きな方でも楽しめる構造だったと思います。現に、中心である春草よりも鴎外さんが気になっている私がいますし。
それでもやはり、原作を知らず2.5次元舞台に足を運ぶのは難しいとは思います。しかもそれが乙女ゲームとなれば、更に足が重くなるでしょう。そこで!ビギナーの方に私がオススメしたいのが、スポーツ漫画原作の2.5次元舞台です。そのほとんどが「主人公学校があって、ライバル学校がある。そして対戦し、勝ち負けを決める」という組み立てでありますので、詳しいストーリーを知らなくても楽しめると思います。勝ちか、負けかと目に見えて結末がはっきりとしていますから。そこから気になる俳優を見つけて、その方が出演している違う2.5次元舞台に足を運ぶのも良いですし、次は思い切って自分の好きな作品原作の2.5次元舞台に入っていくのも良いと思います。
2.5次元舞台ビギーナーには、スポーツ漫画原作の舞台! 手始めに、テニミュに足を運ぶのが良いと思います(他のタイトルよりもチケット代が良心的というのもありますし)。

2.5次元舞台は、百聞は一見に如かずの塊です。気になったのなら、迷わず足を運んで見てください。普段目にするものとは違う世界が、劇場に存在しております。

パンフレットと、5000円以上購入特典の写真
パンフレットと、5000円以上購入特典の写真

●文=大塚理紗
●編集=成田潔
●商品撮影=田村裕未